魔王を倒した元勇者の三十路、のんびりギルド長
魔王を倒した元勇者の話です。
「今日からギルド長をさせてもらう」
そして、俺の名前を口にする。
「よろしくな」
俺は精一杯の笑顔で言い、頭を下げる。
ジロジロ。
ああ、見られてる、外見チェックされてるよ、俺。
ギルドの受付嬢たちに、外見チェックされてるよ。
『この世界』にはネクタイはないから、シャツにズボンっていう格好で来たんだが。
三十路のオッサンだから、がっかりされてるかもしれんが。
「初めまして、ギルド長の教育係をさせてもらう、サエ・ティリ、と言います」
笑顔で言ってくる。
高校生くらいに見えるのに、凄い子なのか。
「チリさんか」
チリ、確かフランスの近くだったか? 覚えやすいな、うん。
「ティリです」
少し怒気が伝わってくる。
「あ、ああ、ごめん」
「気を付けて下さいね、本当に」
怒ってるよ。
「すんません」
俺は頭を下げる。
「そうだ。
これ、お菓子を持ってきたから、よかったら、どうぞ」
「オカシッ」
「うん?」
いきなりの高速詠唱だったら分からなかった。あと、なんか目がキランって光ったような。
「ありがとうございます。
じゃあ、今日からお願いしますね」
高校生だった俺は異世界召喚され、三十路で魔王を倒した。
元の世界に戻ったら無職確定、言葉も忘れたし。
だが、戦うのは厭きた。
そして、運よくなれた、ギルド長。
ぼちぼち、平和的にいこう。
「就任祝いだ!」「酒が美味い!」
ギルドの真ん中のテーブルで、酒を乾杯する冒険者たち。
俺の知り合いではない、てか、俺はギルドに所属してなかったから、ギルドのことはよく分からない。
いいんだろうか、ギルドで酒を飲んで。
ラノベでは、よくあったけど。
「(なんとかしろよ、ギルド長)」
チ、いや、ティリから、伝わってくる、無言の圧。
えー。
どうしよっかなー。
戦いたくないし、かと言って上手いあしらい方も思い付かないし。
本当、どうしよう。
「どうだ!? 新ギルド長!」「勇者だったんだろ!? 豪快にいかねえか!!」
「いや、今はやらない」
「前のギルド長だったら」
ティリから呟きが。
ため息と一緒に。
どうしろと。
「美味いっ」「ギルドで飲む酒は最高だ!」
「ギルドは酒場じゃないんですから、断ってくれないと困ります」
真剣、しかし少し困った顔で言われる。
「そうなのか」
「はい、そうなんです」
ティリにうなずかれる。
「参ったな」
「は?」
「あ、いや」
「はい」
なんだろう、一瞬鬼の形相で睨まれたような。
やっばり、肩書きよりも、入った順番なんだろうか。
日本と変わんねえや。
俺、ギルド長…。
「じゃあ、今回は私が注意して来ます」
「お願いしやす」
そして、歩いていく。
「すみません」
「酒出してくれるのかっ」「最高だぜっ」
絡まれる。
「ギルドは酒を飲む所ではありません」
「早く出せっ」「早くっ」
「あ、あのっ」
いや、完璧に困ってる。
前のギルド長が、断ってくれていたのだろう。
けど、
「ここじゃ酒は飲むな」
俺は近付き、2人に言う。
そして、
「出ていけ」
殺気を込め、言う。
「受付嬢に迷惑かけるな」
殺気を強める。
戦いたくはないが、受付嬢が困るなら話は別だ。
魔王を倒した元勇者の殺気で、2人は逃げていった。
「本当、あのオッサンは最悪」「けど、助けてくれてよかったじゃないっスカ」「もっと早く助けろよ」
耳の集中力を落とす。
ティリと受付嬢(名前覚えないとな)の裏での話し声が聞こえてきた。
ギルド長なんだから、もう少し敬ってくれても。
入った順番か。
「お菓子おいしーっ!」
おっと、もう少し集中力を落とさないといけなかったらしい。
サエ・ティリ、このギルドのまとめ役。
たまに怖い人受付嬢。
そして、甘いものが大好き。
この人は覚えた。
ありがとうございました!




