第6話 清水は刃を逸らす -裏庭廃墟広場-
帝国暦1024年 7月17日 朝
朝練が終わった瞬間だった。
セシリーが汗を拭い、リリアがまだ震える膝を押さえながら立ち上がろうとした、その時。
「やっと見つけたわ、この虫けらども!」
石壁の上にヴィオレッタが現れた。
真紅のマントを翻し、背後に黒鎧の魔導騎士が三人。
全員、手に魔力の光を灯している。
「この間は、よくも恥をかかせてくれたわね!
今日は命乞いをさせて、絶対に殺してやりますわ!」
ヴィオレッタが指を鳴らす。
三人が同時に前に出た。
「クソ貴族が報復に来たか。お前たち下がってろ」
俺は静かに言い、二人を背後に庇う。
「第1の型 流水 だけで十分だ」
「舐めるな、奴隷!」
中央の騎士が両手を掲げる。
空気が歪み、青白い雷の槍が三本、俺の胸を狙って一直線に飛ぶ。
俺は息を吐き、膝を軽く沈める。
第1の型 流水
雷槍が俺の体に触れる寸前――
俺はわずかに腰を捻った。
ビリリリリッ!
雷は俺の体を逸れるように左右に分かれ、
後ろの石壁を粉々に砕いた。
「な……!?」
次の瞬間、
右の騎士が炎の渦を、
左の騎士が氷の刃を同時に放つ。
俺は一歩踏み込み、
体を流れる水のように滑らせる。
炎は俺の肩を掠め、
氷は俺の脇腹をかすめた直後、
そのまま一直線に――
騎士たちの胸を貫いた。
「ぐあぁっ!?」
「うがっ……!」
炎が仲間の鎧を焼き、
氷がもう一方の仲間の胸を突き破る。
二人は血を噴きながら膝をついた。
残る一人は顔を真っ青にして後ずさる。
「ひ、ひぃ……!」
俺はゆっくり歩み寄り、
倒れた二人の首を靴で踏みつける。
「自分の魔法で死ね」
最後の騎士が悲鳴を上げて逃げようとした瞬間、
俺は右足を振り上げ、
そのまま顔面に蹴りを叩き込んだ。
ガキンッ!
鼻が潰れ、歯が三本飛び、
騎士は石の上に仰向けに倒れ、痙攣しながら気絶した。
静寂。
ヴィオレッタだけが、石壁の上で震えていた。
俺はゆっくりと彼女を見上げる。
「お前が次だ」
一歩、踏み出す。
「ひっ……!」
ヴィオレッタの顔が恐怖で歪む。
膝がガクガク震え、
次の瞬間――
じょぼぼぼぼ……
真紅のドレスの裾が濡れ、
黄金色の水が石の上に広がっていく。
失禁した。
「二度とここに来るんじゃねえ。
次に舐めたことしたらお前を裸にして、イカれた奴隷達に放り出す」
ヴィオレッタは泣きじゃくりながら、
這うようにして逃げていった。
俺は振り返り、
二人を見据える。
「見たか。
反魔心境で魔法を受け流せば、
魔法使いなんて恐れるに足らん。」
セシリーが目を輝かせて駆け寄る。
「すごすぎる……! 私ももっと頑張る!」
リリアは震える手で胸を押さえ、
涙目で頷いた。
「私も……絶対に、静水を極めます……!」
俺は小さく頷く。
「ああ。
明日から、さらに厳しくいくぞ......
時間は無駄にしたくない」
朝の風が血と焦げた匂いを運び去り、
三人の決意だけが、その場に残った。




