表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第4話 聖女の囁き -カルケラタン島・地下闘技場 地下・廃倉庫-

埃と錆と古血の匂いが淀む倉庫の奥。



俺は扉に背を預け、腕を組んで立っていた。

目の前に跪いているのは、濡れた白ワンピース一枚のリリア=エステルアード。


湯気を含んだ黒髪が頬に張り付き、

胸元は水滴で透けて、豊かな曲線がはっきりと浮かんでいる。

震える肩、潤んだ瞳。

高貴な顔立ちが、怯えと切実さで歪んでいた。



「……私の魔力は、暴走するんです」



リリアの声は掠れていた。



「幼い頃……村を一つ、焼き払ってしまいました。

それから誰も近づかなくなって……

私自身も、自分が怖くて……」



涙が頬を伝い、床にぽたりと落ちる。



「でも、あなたの傍にいると……

魔力が、静かになるんです。

初めて……怖くなくなった」



彼女は震える手で俺のズボンの裾を掴んだ。



「お願いします。

あなたの力を……少しだけでいいから、教えてください」



俺は黙って見下ろす。


甘い香水と少女の体温が、埃っぽい空気に混じって鼻をくすぐる。



「……立て」



短く告げる。

リリアが顔を上げる。

涙で濡れた瞳が、希望に揺れた。



「俺自身なぜ魔法が消えるのかはわからん。

 だから、生まれ持った体質みたいなもんでわからない物を教えることはできない。」



リリアはショックを受けたのか、今まで力が入っていた肩が垂れ、目に動揺の色が見えた。



「しかし、

 おまえにもできることはある。」



「え...!?」

リリアの目の動揺が消えて、少し身を乗り出す。


 「これまでの俺の奴隷生活の中で一度だけ師匠と呼べる存在がいた。

 奴隷になりたての頃は、闘技場で対戦相手の魔法を消せても意味はなかった。

 武道の心得はなく、力も無いので剣で切られて終わりだった。

 そこで師匠が俺に教えてくれたのは魔法を跳ね返す「反魔心境」という技術だった。」



「これを習得するのは簡単なものじゃない。

 だが……本気なら、教えてやる」



「本当……ですか……!?」



「ただし条件がある」



俺は一歩踏み出し、リリアの顎に指をかけて上向かせる。



「俺の言うことは、絶対だ。

泣き言が出たら、その場で終わりだ」



リリアは震えながらも、力強く頷いた。



「……どんなことでも、します」



その瞬間――



「……ちょっと! 何やってんのよ二人とも!」



倉庫の入り口から、怒り心頭の声。

セシリーが顔を真っ赤にして飛び込んできた。

銀髪を振り乱し、小さな体でリリアの前に立ちはだかる。



「貴族のくせに土下座!?

しかもエランの前で胸とか強調して……最低!」



リリアは慌てて立ち上がり、両手を振った。



「ち、違います! 私はただ……!」



「言い訳しないで!

エランは私の……私の……!」



セシリーは言葉を詰まらせて、俺の右腕にぎゅっとしがみついた。

華奢な体がぴったりと密着して、熱が伝わってくる。



「……離すなよ、バカエラン」



俺は小さくため息をついた。



「……明日から訓練を始める。

お前ら二人とも、覚悟しておけ」



リリアは涙を拭い、深く頭を下げた。



「ありがとうございます……エランさん」


セシリーは「えっ、私も!?」と驚きながらも、すぐに胸を張る。



「当たり前でしょ! 私の方が先にエランのこと……!」



言葉を最後まで言わせず、俺は二人を交互に見た。



「文句は訓練で言え。

泣いても、逃げても、容赦しない」



薄暗い倉庫に、三人の吐息だけが響く。

リリアは恥ずかしそうに胸を押さえ、

セシリーは俺の腕に頬をすり寄せながら睨み返す。


……面倒くさいことになった。

だが、この瞬間、俺の中で今までの奴隷生活にはない何かが確かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ