ピンボールの魔術師
〈三日月の頃には俺も尖るのさ 涙次〉
【ⅰ】
前回は冷靜沈着に仕事を片付けられた。然し「ゲーマー」の繰り出す【魔】は順を追つて手強さをプラスして行くのだらう。それは一味全員に讀めた事だつた。
だが、カンテラは一味リーダーとして、君繪の事(「ゲーマー」の100ポイントで成長を止める契約を破棄出來る)の他に、現金収入についても氣を配つてゐる。前々回陥つたやうな情けなさなど、實は微塵もカンテラにはまつろつてはゐない、と云ふのが、實際のところだつた。
この現金収入さへ途切れなければ、一味は「ゲーマー」とその妖魔たちに對抗し得る。カネづくなのではない。それ以外には、各人の仕事量・仕事の質を量るものが、あり得ないと云ふ事だ。
そこら邊、一般企業と何ら變はりはない。
【ⅱ】
で、其処らを「ゲーマー」、勘違ひしてゐた。カネを齎すのは「魔界壊滅プロジェクト」なのであつて、【魔】たちはそのネタに過ぎない。提供されたネタは消盡されてしまふのが世の常だ。その事を「ゲーマー」が知つてゐたかだうか- 恐らく彼は知らなかつたらう。【魔】の肥大化により、勝利を納める自分を夢見過ぎてゐた。自分が劣勢に立つてゐる事を分かつてゐなかつた。カンテラのやうに助言者に惠まれる、と云ふ事がなかつたからである。
【ⅲ】
只、「ゲーマー」にも過去を振り返る能力は備はつてゐた。「三匹【魔】」「偽ケルベロス-X」、どちらも蘇生と云ふ事に頼り過ぎてゐる。新機軸、採れ立ての【魔】を「お届け」しなくてはな、と彼は思つた。
魔界のメカニック集團のラボを覗いて見た。メカニック集團さへもが、カンテラ一味の手入れの為、貧寒としてゐる。
これは一丁、自分でキメラメイキングをしなくちやならんな、と「ゲーマー」は思つた。
※※※※
〈収穫祭我が作物が壇上に置かれ言祝ぐ今日は來たれり 平手みき〉
【ⅳ】
「ピンボール【魔】」と云ふのを、「ゲーマー」考案した。ボールを彈き返す每に、獲得ポイントにボーナスが加算される。だが、我を失つてボールを追つて行くに連れ、徐々に人間として大事な物を見失つて行く。
「コンセプトメイキングは上々だ。だが、元となる【魔】が肝腎なのだ」-魔界一般に公募したところ、ぼんくらどもが雁首揃へて集まつて來るばかりで、決め手に欠ける。何せ改造手術に耐え、カンテラたちに勝てる肉體を得るのは大變だ。
【ⅴ】
もうかうなりや自分が「ピンボール【魔】」に變身するしかない。彼は功を焦つてゐた。そして...「カンテラよ、今度は俺が相手だ」-「いゝのかい? まだ奥の手には早いぜ」-「兎に角、『ピンボール【魔】』の無間地獄を味はつてみな」-彼はその世界を廣げて行き、カンテラ一味をも包摂した。
「な、なんだこりや」-金尾が忙しなく行き來する銀色のボールに捕まつた。天井知らずで増え行く「得點」に心を奪はれ、ボーナスポイントは「俺の手柄だ」、と各人の邪魔をし始めた。然し、カンテラ・じろさん・テオ・金尾の中で、とち狂つたのは金尾だけ。その他の面子は「冷めて」ゐた。
【ⅵ】
じろさん「えーと、司令塔はあれだな」。「カンさんあのタワーを壊してくれよ」-「合點承知!」カンテラが、表示數字が鰻昇りに上がつて行つてゐるその「タワー」を、剣で破壊すると、「ゲーマー」が展開した無間地獄とやらは消え去つた。常人では考へられぬ一味主要メンバーの胆力を舐めた報ひだ。
「ごほつ、ごほつ」重傷を負つた「ゲーマー」。「これで何ポイントな譯?」-テオが冷酷に訊く。「ごほつ、じゆ、10ポイントだ」-「累計25。もう4分の1まで到達だ」
【ⅶ】
金尾は我を失つた事、深く恥ぢてゐた。それだけが余波。余りに見通しの甘い、「ゲーマー」の攻撃であつた。
※※※※
〈天の川川邊の風もうそ寒し 涙次〉
「プロジェクト」よりの獲得金額5百萬圓。「ゲーマー」に深くダメージを與えたと云ふところで、今回は終はり。ぢやまた。