女心が分からないにも程があります!
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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俺の隣で寄りかかるように座っている綾ノ瀬奈々美は、嬉しそうに自分のスマホを俺が見られるように持つ。
けれど、その胸元は大きく開いており、肩から伸びる紐とその物体が丸見えだ。
(……まったく、気づいていない?)
奈々美は気にした様子もなく、魔法学校での日常を語る。
「世間が思っているよりも、ウチは魔法を使っておらず――」
スマホを見ようとすれば、自然に胸元が目に入る。
指摘しようか悩むも、時間は過ぎていく。
「あ! ちょっと、お待ちください……。学生証を」
奈々美は、自分の横に置いているバッグに手を伸ばした。
そして、上体を戻すが――
「ほら? 私、本当に魔法学校の生徒ですよ?」
顔写真付きのカードを見せられたが、それどころではない。
奈々美の胸元にある肩紐の1つが、下にずり落ちていたから。
(え? 片側は丸見えで、気づかない……)
いっぽう、奈々美は上体を動かさないままで学生証を仕舞った。
「フアッ! 私、眠くなってきました……。少し、仮眠をとってもいいですか?」
俺のほうに体を預けた奈々美は、すうすうと寝息を――
ピンポーン♪
バッと上体を起こした奈々美は、玄関ドアのほうを向く。
俺もソファから立ち上がりつつ、インターホンへ。
「アレーテか? 綾ノ瀬さんは……もう来ているぞ?」
内鍵を外し、玄関ドアを開いた。
勢いよく入ってきた水鏡アレーテは、犯人を探しているように見回す。
ソファに座っている奈々美を見つけて、ホッとする。
俺は玄関ドアを閉めて、内鍵をかけ直す。
「おかえり」
「……寿命が縮まりましたわ」
今の特区で、まだアレーテに手を出す奴がいるのだろうか?
全員が揃ったから、本題に入る。
具体的な原理を除いて、一通りを説明。
息を吐いた奈々美は、脱力する。
「本川高校の古波津さんは、USへ旅立ちましたか……。依頼にないことをお願いして、申し訳ありません」
奈々美の胸元は、中が見えない状態だった。
(さっきの今で、ブラの紐が落ちていたことに気づいた?)
アレーテの視線を受けて、探偵事務所の所長として応じる。
「こちらも、古波津さんと面識がありましたから……。依頼人はあなたのお兄さんで、俺の隣にいるアレーテが成功報酬などの交渉を担当しています。そちらに質問がなければ、あなたへの説明は終了です」
対面のソファでモジモジした奈々美は、俺を見た。
「あの……。水鏡くんと、また会えますか? 私、これでお別れは嫌です」
「申し訳ございません……。あなたは依頼人の妹さんですし、何よりも――」
――現状で何らかの魔術的な影響を受けている方の意見は、拒否します
その返答で、和やかだった空気は凍りついた。
同じく固まっていた奈々美が、ゆっくりと話す。
「ア、アハハ……。そうですよね? すみません、私の気持ちは偽物だから――」
「才っ!!」
俺の隣に座っていたアレーテが立ち上がり、俺を睨みつつ、絶叫した。
いっぽう、小さく震えながら俯いた奈々美は、泣き出す。
「……失礼しますっ!」
横に置いていたバッグをつかみ、逃げるように走り去る奈々美。
俺は、胸倉をつかんだアレーテに持ち上げられるも――
「……後にしますわ」
乱暴に放され、自分のスマホをつかみ、出て行くアレーテを見送るのみ。
息を吐いた俺は、誰もいない自宅に取り残される。
◇
「ただいま……」
高級住宅街。
注文住宅に帰ってきた綾ノ瀬一京は、妹が出迎えないことに不審がる。
「……妙だな?」
ブルルルと震えたスマホを見れば、新着のメッセージ。
それを確認することなく仕舞った一京は、左腕に巻いた時計をさわる。
(防犯装置に異常はない、か)
持っていたビジネスバッグを置きっぱなしに。
玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えることなく、摺り足でリビングダイニングへ……。
センサーで明かりがつくはずだが、暗いままのリビングダイニング。
「……奈々美?」
ダイニングから続く台所に、人の気配がある。
明かりをつけた。
片目を閉じていたことで、半分の視界。
死角を警戒しつつ、片目は閉じたまま。
これは、急に暗くなった場合の備え。
ジリジリと進み、今度は台所の明かりをつける。
壁を背にしたまま、綾ノ瀬奈々美が座り込んでいた。
周りに、誰かが潜んでいることもない。
息を吐いた一京は、妹を見て……固まった。
「お兄様……」
おずおずと見上げた奈々美の両手には、包丁が握られていた。
どう見ても、これから食材を切るとは思えない。
「奈々美!」
とっさに動いた一京は、両手の上から柄を握りしめ、切っ先を誰もいない方向へ向けつつ、魔法を発動した。
「あっ……」
ベクトルを与えられた包丁が飛び出し、その先にある壁に突き刺さった。
ビイインッと、刃が震える音。
片膝をついた一京は、妹の両肩をつかんだ。
「何があった!?」
緊張が解けたのか、泣き出す奈々美。
落ち着くのを待つ間に、スマホの新着メッセージを確認する。
やがて、奈々美はヒックヒックと泣いたまま、事情を説明した。
全てを聞いた一京は、正面から妹を抱きしめる。
「大丈夫だ、奈々美……。俺に任せておけ!」
ようやく顔を上げた彼女は、不思議そうに呼びかける。
「……お兄様?」
「安心しろ! 全て上手くいく……。全てな?」
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