20人以上の女子が自殺した原因は、こいつでした!
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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本川高校の生徒会室で、浅岡あいかの死体が発見された。
窓越しに狙撃されたうえ、別の銃で撃たれていたから。
狙撃できるポジションで撃ち尽くしたライフルも見つかったが、俺と水鏡アレーテは警察に呼ばれず。
(特区から保護者よろしく付いてきた女刑事の京本香穂が取り成したとは、思えん!)
ちなみに、生徒会長の古波津百合の取り調べをしたようだが、アレーテが付き添ったことで1時間もせずに解放された。
ずっとアレーテが一緒で、通信履歴や目撃情報もあっただろう。
というか、普通の女子高生は狙撃をできないし、日本のスーパーで銃は売っていない。
(本川署の建物が人ごと斬られなくて、何より……)
犯人の木佐久は、どっかへ逃げたようだ。
で、俺は炭八馬佳守に呼ばれた。
お互いに制服を着たまま、放課後の時間でファーストフード店でカウンターに並ぶ。
「百合を守って、事件を解決したわけだし……。これ、約束の女子を惚れさせるやつ」
プリントアウトした紙を渡された。
いかにもな円と記号が並ぶ。
(淫紋アプリは、これの派生か……)
折り畳み、内ポケットに入れる。
「確かに……。古波津先輩も、いずれ出てきますよ」
「今は、君の妹さんが付き添っているんだよね? 本当にありがとう」
俺にこれを渡した理由は、それだな……。
機嫌を損ねた俺がアレーテを引き上げさせたら、絶望した百合は自殺しかねない。
「先輩は?」
「……百合は会ってくれないし、既読スルーもない! 家族が事務的にお断り」
そりゃ、そうだ!
惚れさせる魔術は、禁書が消えたことで無効化されたし。
(弱った百合と一緒にいれば、惚れ直すかもしれんが……)
そもそも、佳守は陰キャだ。
警察が殺気立っていて銃撃された死体も出た状況じゃ、チャラ男先輩だって匙を投げる。
佳守は、こちらを見た。
「綾ノ瀬さんの行方は、知らない! 悪かったね?」
「……仕方ないです」
季節の限定バーガーの濃い味が、いつまでも残る。
甘ったるい炭酸ジュースで流せば、放課後ライフの完成だ。
(フライドポテトの塩味、すごいな?)
まったりしていたら、隣の佳守がポツリと呟く。
「実はさ? 個人輸入をしたんだ……。僕じゃなく、古い洋書を扱っている古本屋で! 本屋の隣にあるチェーン店じゃなく、ガチで詳しい人だけが立ち寄って、本によっては一財産するところさ」
ほーう?
そっちで流れてきたか……。
「知ってますよ? 一見で行くと、『はよ出て行け』とプレッシャーかかる本屋」
笑った佳守が、頷いた。
「そうそう! 君が誰に使うかは別として、これで共犯だから……。その古本屋にふらっと立ち寄り、店番をしていた店主にオススメされたんだ。辞書みたいな古い洋書を数冊……。その中の1冊に、書かれていたってわけ! 僕は百合と相思相愛になったことで満足して、今度は怖くなった。ちょうど生徒会に出入りしていた浅岡先生に相談した後で、全部渡したんだ」
え?
感情を捻じ曲げられた女子が20人以上も自殺して、一家心中になったのも。
この街で大きな売春クラブに成長したのも――
(ぜんぶ、お前のせいだったのか!)
ショックを受けている俺に、佳守が苦笑する。
「その浅岡先生も、殺されちゃってさ……。僕は百合を支えていくから、君も本当に好きになった女子にだけ使うといいよ?」
「……そうですね」
佳守は罪悪感を抱いたのか、自分のトレイを持って立ち去る。
「じゃ、じゃあ! 学校閉鎖になったけど、課題をやらないといけないから! 百合の家にも立ち寄ってみる」
残ったジャンクフードを口に入れ、考える。
(さーて、どうしようか?)
炭八馬佳守は、禁書の運び屋にされた。
だが、古波津百合の気持ちを捻じ曲げた犯人でもある。
(悪用したのは、浅岡あいか! 俺は、警察でも裁判官でもないからな……)
問答無用でぶっ殺してもいいし、完全犯罪にもできる。
法律で裁かれることはない。
(なればこそ、慎重に対応する)
極論を言えば、自分しか律する存在がいないのだ。
気に食わないで処していたら、キリがない。
(あの陰キャの罪……ではあるよな? 問題は、やつの自覚が薄すぎること)
その時に、スマホが震えた。
メッセージを見ると、百合が動くようだ。
(ふむ……。俺は、許してやろう! だが……)
文面を考えつつ、俺はスマホの画面にさわる。
◇
国際空港でスーツケースを転がしている女子高生。
古波津百合だ。
その顔には疲労が色濃く、ドラマのような声に立ち止まり、振り向く。
「百合! 待ってくれ! 最後に、これを見て欲しい」
泣きそうな顔の炭八馬佳守が差し出したものは、水鏡才に与えたのと同じだ。
渡された紙片をジッと見た百合に、佳守が告げる。
「君は、僕の彼女だ! 行かないで欲しい! 僕がずっと支えるから――」
「何をしてくれるの?」
無表情の百合に問われて、佳守は驚いた。
「えっ? そりゃ、一緒にいて慰める――」
「怖い警察に付き添ってくれたのも、ずっと自宅にいてくれたのも、水鏡さんだったわ……。おかげで、自殺せずに済んだ」
「そ、それは! 仕方ないじゃないか! だって、僕はまだ高校生で、君の家族に断られたし――」
「分かった」
呆れたように息を吐いた百合は、魔術的な記号や呪文らしきものから、佳守を見た。
にっこり微笑む。
「分かってくれたんだね! ひとまず、僕の自宅に――」
「さよなら」
脱力した手から、女を惚れさせる術式の紙がヒラヒラと舞う。
背中を向けた百合は、国際線のゲートに荷物を置いた。
いっぽう、膝が落ちた佳守は、リノリウムの床に手をつく。
「……何で?」
様子を見ていた警備員2人は、視線をそらし、目立たない場所へ移動した。
国際線で、ちょくちょく見られる光景だ。
過去作は、こちらです!
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