ブラッディ・クローザー(後編)
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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俺が近くに立ったら、息を吐いた中年男は屈み、背を向けたままで呟く。
「来ると思ってたぜ……。俺を始末するのか?」
「抵抗しないんだな? どうせ、ハンマーを起こした小型のリボルバーでもあるんだろ?」
再び息を吐いた中年男は、ゆっくりと立ち上がり、振り向いた。
本川高校に住み込みの用務員、木佐久だ。
そして、ここは敷地内。
木佐久は、右手にあるリボルバーを見せた。
「持ってるさ! 本川署の大騒ぎは、俺の耳にまで届いたぜ……」
「ムダと分かっても、性分か! ま、安心するよな?」
俺が苦笑したら、ゆっくりとハンマーを戻したあとで、リボルバーをポケットに仕舞う木佐久。
「聞きたいことがあんだろ? 言ってみな!」
「俺は、この乱痴気騒ぎを仕掛けた馬鹿を始末するが……。あんたも恨みがありそうだから、先にお伺いを立てたんだ」
肩の力がぬけた木佐久は、怒りを見せながら答える。
「俺がやりてえ! 安心しな、黒幕をぶっ殺したら日本を立ち去るからよ!」
「この高校に主犯がいるとは、気づいていたわけか……」
頷いた木佐久は、煙草を取り出し、火をつけた。
煙を吐いてから、俺を見る。
「ああ……。だけど、せいぜい売春の手引きで女子を売ってるぐらいに思っていた。組織が手玉にとられていたとは、日本のヤバいところもレベルが下がったもんだぜ!」
「あんたが得意な手段で、仕留めればいい! ついでに、誘い出してやる」
地面に落としたタバコを足で踏み消した木佐久は、下を見たままで言う。
「聞かねえんだな? どうして人を殺したとか、怒っているんだとか……」
「聞いて欲しいのか?」
俺の質問で、おかしそうに笑った木佐久が顔を上げる。
「ククク……。まさか! そうそう、嬢ちゃんに返して欲しいものがある」
◇
浅岡あいかは、生徒会室に急いでいた。
その理由は、水鏡アレーテからの電話。
――あの会員制クラブで、古い辞書のような本を見つけましたの!
「こんにちは!」
すれ違った女子が挨拶したものの、あいかは無視した。
足音を響かせて、生徒会室にたどり着く。
引き戸に鍵を差し込み、乱暴に開けた。
(あった! 他の魔術師に襲撃され、全て持ち去られたか、処分されたと思ったけど……)
1冊でも残っていれば、御の字だ。
(次の取引相手を見つけ、今度はもっと上手くやりましょう!)
アレーテが置いていた禁書に近寄り、もどかしそうに開く。
「……本物のようね? 助かったわ!」
窓際にある生徒会長のデスクの前に立ったまま、どんどんページをめくる。
「このことを知っているのは、水鏡さんとその兄? どうやって口封じをしたものか――」
パリンッ
ガラスが割れる音。
あいかの体に、強い衝撃が加わる。
狙撃されたのだ。
窓は小さな穴から四方に割れていき、バラバラと落ちていくガラス片。
「ぐっ! あいにく、私にはライフル弾ぐらい耐えられる障壁があるの!」
禁書を閉じた「あいか」が、それを小脇に抱えつつ、生徒会室の出口を目指す。
背中を向けているが、本人が言ったように見えないバリアーが守る。
けれど――
二発目の弾丸は、その障壁にぶつかりつつ、あっさりと貫いた。
柔らかい人体など、紙と同じだ。
「ぶっ!? な、何で――」
三発目、四発目、五発目。
その度に殴られたようにビクンッとしつつ、あいかは前に倒れ込んだ。
落とした禁書がドスッと、鈍い音を立てる。
「だ、誰か……」
必死に助けを求めるも、流れ出る血は増え続け、じきに伸ばしていた手も落ちた。
開いたままの引き戸から見える廊下は、放課後らしい夕暮れを示す。
コツコツと近づいた女子が、右手で持っている小型のセミオートマチックで頭に数発、心臓に数発を撃ち込んだ。
パンパンッと乾いた音がするも、知らなければ銃声とは思わない。
落ちている禁書を拾い上げたアレーテは、生徒会室から出て、引き戸を閉めた。
奪った鍵で施錠したら、女子トイレに流す。
そのまま、下校する生徒に交じった。
(あの木佐久が持ち逃げしたガード・スペシャルで女魔術師にトドメとは、皮肉ですわね?)
同じ制服で歩き続けるアレーテは、もう見ることがない景色を目に焼き付けた。
――高台
うつ伏せで狙撃ライフルを構えていた木佐久は、撃ち尽くしたままで立ち上がる。
「たいしたもんだよ、坊主! ライフル弾を止めるような化け物に効くとは……」
持っていたライフル弾に魔術的な付与をしてもらい、その結果がこれだ。
立ったままで斜面を滑り降り、停めていたバイクにまたがる。
パトカーのサイレンが聞こえる……。
ライダースーツで、顔が見えないヘルメットをかぶった。
バイクには大手の運送会社のマークがあり、緊急走行のパトカーは反対車線を通りすぎる。
木佐久は途中でバイクを乗り換え、服装も変えた。
やがて、太平洋を横断できるだけのヨットに乗り込む。
出航しつつ、遠ざかる日本の陸地を振り返る。
「あばよ、リア!」
日が暮れて、海は真っ暗に。
星空と人工的な明かりになった中で、木佐久は呟く。
「これから、どうすっかね?」
過去作は、こちらです!
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