ブラッディ・クローザー(前編)
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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雨が降っていた。
戦闘服を着た兵士が1人、どこかの部隊に追われているようだ。
辺りは暗いが、まだ昼。
雰囲気と地形から、ヨーロッパのどこかの森林地帯だ。
「大勢の味方を殺したスナイパーは、この辺りにいるはずだ! 探せ!!」
指揮官らしき男の叫びで、他の兵士たちが散開する。
その時に、ニャーッ! と鳴き声。
誰もがライフルの銃口を向けつつ、緊張した顔で近づく。
やがて、指揮官が中に入るも……。
スリングでライフルを肩掛けしたまま、両手で掲げたのは、ネコだった。
一斉に息を吐く、兵士ども。
「もう逃げたようだな……。別の場所を探すぞ!」
ネコを地面に置いた指揮官は、部下に命じた。
面食らったネコは、一目散に走り去る。
彼らが立ち去った後で、隠れていた兵士が出てくる。
両手に赤ん坊を抱いたまま……。
「おい? 呼吸をしろ、呼吸!」
見つからないように口を塞いでいたことで、呼吸をしていない。
ペチペチと叩くと、ゴホッと息を吐く赤ん坊。
思い出したように、泣き出す。
その男は周りを見ながら、肩に狙撃用ライフルを下げたまま、早足で立ち去る。
・・・・・・
・・・・
・・・
・
目が覚めた。
擦り切れた畳による、せまい部屋だ。
本川高校の用務員室で目覚めた木佐久は、薄っぺらい布団で上体を起こした。
「リア……。やっぱり、バチが当たったんかね? 俺が近くで見守っていなけりゃ、せめてお前は……」
それは、合同葬儀にあった女子の名前。
木佐久は広げた両手を見下ろすも、答える者はいない。
「日本を離れるか! だが、その前に……」
木佐久の表情は、ゾッとするほど冷たかった。
「あいつをこんな目に遭わせた奴らは、生かしておかねえ……」
立ち上がった木佐久は、畳を起こした。
その下には、よく整備されたショットガン、拳銃などが並ぶ。
細長い筒が印象的なハンドガンを選び、慣れた様子でチェックする。
――放課後
目につきにくい場所で集まった、不良グループ。
水鏡才を脅したリーダーは、取り巻きと一緒に腰を下ろしている。
「ちくしょう! 綾ノ瀬は行方不明だし、あのヤリ場はなくなっちまった!」
「今は個人情報の保護で、自宅も分からんしなあ……」
「とっとと買うか、ヤッておけば」
「いても、ハイクラスだろ? 俺らじゃ、無理だぜ」
けれど、リーダーは思いつく。
「生徒会長の古波津は? あいつ、自殺してねーだろ?」
「ずっと休んでるよ」
「ああ、そのはずだ……」
「水鏡の妹が、付き添ってるらしいぜ?」
「合同葬でも、見かけたような……」
「古波津が登校したら、すぐ教えろよ? 俺の女にするわ」
「分かった」
「水鏡の妹は、どーすんの?」
「そっちは、どうでもいい! お前らが狙ってるなら、好きにしろ」
やがて、リーダーだけ残る。
「あーあ! 古波津は来ないし、綾ノ瀬はくたばったか、逃げちまった」
火をつけ、煙をくゆらす。
「水鏡の妹でもいいな? 今度は柄にもなく遠慮しねーで、早くヤッておかないと――」
プシュッ! プシュッ! プシュッ!
規則正しい、炭酸が抜けるような音。
訳も分からず、倒れ伏すリーダー。
「な、何だぁ?」
激痛にうめくも、自分が何をされたのかも不明なまま。
いっぽう、サイレンサー内蔵の22口径のセミオートマチックを握る木佐久は、近づいてから頭に銃口を向ける。
「お、おっさん……救急車を――」
プシュッ! プシュッ!
硬いものが割れる音で、リーダーは絶命した。
周りを見た木佐久は、切れた電球を交換するような雰囲気でリーダーの両脇に手を入れ、ズルズルと運び出す。
◇
『水鏡くん、自首して?』
開口一番に言われた俺は、京本香穂に言い返す。
「京本さん、宗派は何ですか?」
『へっ?』
「いや、どういう葬儀にするかって――」
『仮にも現役の刑事に殺害予告をするの、止めてくれない!?』
心温まる会話をした後で、俺は尋ねる。
「順番に、話してくれません?」
『……本川高校で男子が1人、失踪したの! 最後に目撃された場所には本人らしき血痕があって』
「どうして、俺が?」
『あの高校の不良をまとめているリーダーでね? 君も放課後に呼び出されて、詰め寄られたって――』
「俺を呼び出したギャルが、取り調べで言ったか……。あとで、始末しとこ」
『だから、冗談でも言わないでって!』
「俺じゃないです! アリバイは……たぶんない」
息を吐いた香穂は、あっさりと言う。
『嬉々として完璧なアリバイを言うほうが、怪しいわよ!』
「呼び出された時は、『綾ノ瀬を彼女にするから手を出すな』だったか? 違うと答えたら、すぐ解放されたけど」
沈黙のあとで、香穂が告げる。
『本川署は、あなた達のせいでビビりまくり! 公立高校は文科省の管轄だし、敷地内に乗り込んで捜査する気はないようね……。何やったの?』
「知らないほうがいいです! 邪魔が入らないのなら、やりやすい……。淫紋アプリの件は、片付きました。でも、それを仕組んだ犯人と、アレーテが目撃したスラムファイアーの奴が残っています」
緊張した様子の香穂が、尋ねてくる。
『どうするの? 後者は、あの売春クラブにいた支配人を殺したんだっけ?』
「……ええ! スラムファイアーのほうは見当がついているから、そっちの対応を見てから、前者の犯人を消します」
苦笑しながら、指摘する。
「今度は、言わないんですね? 殺すなと……」
ゆっくり息を吐く音のあとで、香穂は低い声で答える。
『私もね? 怒っているの……。大勢の女子の命と尊厳を奪った奴を……。これ以上は、言わせないで』
「分かりました……。もうすぐ、この事件は終わりますよ! じゃ」
スマホの画面をさわれば、時刻は朝だ。
俺は、ベランダの窓から外を見る。
「憎らしいぐらいの快晴だ……。最後に、本川高校を見ておきますか!」
過去作は、こちらです!
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