人は自分が見たものしか信じない
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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別の取調室に入ったら、大勢が1人の女子と向き合っていた。
(何だ、これは……)
呆れつつも、壁に立てかけていたパイプ椅子を自分で運び、水鏡アレーテの傍で座る。
「どうなっている?」
「……あの売春クラブにいた人間の照会に協力しろと!」
幹部の部屋を朽ち果てたから、名簿を入手し損ねたようだ。
事務デスクを境界線にして、男どもの1人が叫ぶ。
「幹部がいた部屋の窓から出て行く貴様らを目撃した奴がいるんだ!」
「せめて、誰がいたか? は証言しろ」
「アレーテ、壁を壊せ! 預けた荷物を回収して、戻るぞ」
「……ええ、そうですわねっ!」
立ち上がったアレーテが腕を振るえば、一瞬で伸びた黒いブレードが豆腐のようにドアの形をなぞった。
力尽きたように、バラバラと崩れ去る内壁。
俺たちがそちらに歩けば、シュホッと擦れる音。
振り向くと、スーツの上着を払った連中が銃を抜いていた。
両手で構える刑事たちに構わず、俺たちは背中を向ける。
「撃つぞ!」
「そこで止まれ!」
足を動かし続ける俺たちに、パンッと威嚇射撃。
近くの壁がえぐれ、同時にギンッと跳弾する。
バシッ! ガッ!
ようやく、銃弾が止まった。
振り向いた俺に、1人の刑事が激怒した。
「ふざけるな……」
その気配を感じた上司らしき男が命じる。
「よせっ!」
パンパンパンッ!
セミオートマチックの銃口から、小さな炎が見えた。
腕が良いらしく、どれも俺に命中するコース。
けれど、見えない障壁にぶつかったことで止まる。
「ムダだ……」
その返事は、連続する発砲音だった。
上のスライドが後ろに下がったまま、カチカチとトリガーを引き続ける。
「俺は魔術師だ……。こいつは、何でも切り裂き、殺しても死なない化け物!」
俺が近くの壁に手を触れれば、そこからボロボロになっていく。
バラバラと崩れていく壁から手を離し、魔術で1つの拳銃を引き寄せつつ、呆然としている刑事たちに告げる。
「アレーテ、これを団子にしておけ」
「フフフ♪」
投げた拳銃を受け取ったアレーテは、両手でオニギリにした。
あっさりと人を殺せる弾丸を放つ装置は、ゴムよりも簡単に真球になる。
片手でアンダースローをしたら、放物線を描いたあとで、事務デスクの上にゴンッとぶつかる。
ゴロゴロ ゴトンッ! パンッ!
デスクから床に落ちた音で、恐慌状態に陥った刑事が発砲した。
「おいっ!?」
同僚の1人が叫ぶも、その銃弾はアレーテの顔面に当たる。
肉から骨まで削られたが、見るも無残な状態はあっという間に戻っていく。
「ひっ……」
「何なんだ、こいつら……」
息を吐いた俺は、宣言する。
「預けた荷物を返してくれ……。俺たちは帰る! そのうち特区に戻るから、余計なことをするな! お願いだ」
取調室にいる刑事たちは、言葉もない。
崩れた壁の穴から出て、全員に見守られたまま私物を取り戻し、正面玄関から出て行く。
「残った問題を片づけるぞ、アレーテ?」
「イエス、マスター!」
◇
売春クラブで活動していた女子の1人が、自殺した。
魔術書が失われたことで淫紋アプリは効果を失い、正気に戻った彼女は耐えきれなかったのだ。
それを皮切りにしたかのように、2人目、3人目と自殺者が続く。
ついに、10人を超えた。
地獄絵図だ。
教育委員会や警察、市役所が動いたものの、金で股を開いても強く生きろと言われて、はい分かりました、と答える女子はいない。
(あのクラブの動画も、流出したからなあ……)
水鏡アレーテは、友人となった古波津百合の自宅にいる。
彼女だけは、絶対に守りたいらしい。
自殺者は、20人を越えた!
ここのニュースで女子の自殺者を聞かない日がないほど……。
マスコミも、最初はけしからんと非難していたが、今じゃ命を粗末にしてはいけないと手の平を返した。
(お前らのせいだろ?)
テレビ局の関係者が、女子を自殺に追い込んだ悪を懲らしめるという狂人に襲撃されて死亡。
どの局もビビって、フェードアウト気味だ。
家族ごとの心中に至り、ついにテレビ局ですら、面白おかしく報道して御免なさいと頭を下げる始末に。
取材や制作したスタッフにすら、自殺者が出たようだ。
ゴシップですら扱わない話題へ……。
下手に関われば、何をされてもおかしくない。
逃げるように引っ越した一家も多く、自殺した女子たちの合同葬儀が市の主催で行われた。
顔を隠した百合も、アレーテに付き添われて参列した。
俺も出席したが、大勢が泣いているような豪雨。
本川高校に住み込みの用務員である木佐久もいた。
外で傘もささず、ずぶ濡れになりながら立っている。
俺は視線を外して、大勢に紛れたまま、彼女たちを弔った。
(理非なき時は、何とやら……)
キョロキョロと、彼女の百合を探している炭八馬佳守の背中で警告する。
「全て、忘れろ……。古波津百合と女子を惚れされる手段にこだわれば、殺すぞ?」
「はあっ!?」
佳守が振り向くころには、人混みにまぎれた。
(あとは、このバカ騒ぎを仕掛けたやつを仕留めるだけか……)
過去作は、こちらです!
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