さよなら日常、こんにちは貧乏ライフ!
室矢重遠は、ゼロから天までの道のりを歩む!
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「や゛め゛ろおお゛お゛おおっ!」
一瞬で頭に入ってくる、知らないはずの光景、知識。
俺の頭を片手で持ち上げている黒い人型は、顔がないのに嬉しそうな笑顔。
少なくとも、俺にはそう思えた。
2mほどの人型が、ボイスチェンジャーのような声。
『うう~ん? まだ喋れる? 試しに、宇宙の神秘をぜーんぶ教えたのにねえ? ハハハハハ!』
俺が気絶しそうになっていると、そいつが話し続ける。
『気が変わったよ! 君は見逃そう! その力で女子更衣室でも覗きながら、楽しく過ごせば――』
パァンッ!
片手で密着させたリボルバーを撃ったものの、黒い人型はさして痛痒を感じず。
『おっとっと! 本当に、元気だね……』
空いている片手で外側へ振り払われ、次の弾丸はあさっての方向へ飛んでいく。
ガシャンと、唯一の武器が落ちる音……。
『君の好きにすればいいさ! 今の社会を滅ぼすも、独裁者になるも』
「うるさい……。どうせなら、美少女のハーレムでも……」
『そっかそっか! できるといいね? アハハハハ!』
やつが手を離せば、両足から床に崩れ落ちる。
そのまま、意識を失う。
――半年後
忌まわしい事件で中学生だった俺は、観察特区と呼ばれるエリアの屋内で目を覚ました。
安物のベッドから身を起こして、窓のカーテンを開ける。
日光が差し込み、刑務所のように殺風景な部屋を照らし出した。
ネットに繋がっている端末を起動させて、ニュースを流しつつ、それをBGMに冷蔵庫と棚を漁り、食事を用意する。
『特区の繁華街で、黒いスライムらしき物体が店を埋め尽くし――』
「面倒だから、残ったご飯とレトルトでカレーにするか……」
一人暮らしだと、独り言が多くなる。
今のニュースは冗談ではなく、この観察特区でよくある事件の1つ。
『魔法犯罪への対策を急いでいる綾ノ瀬は――』
飲むように食えるカレーは、まさにタイパがいい。
端末で “観察特区” と打ち込めば、先頭に表示されたのが――
“日本初の、実験的な特区! 東京の傍にあることで、従来の科学技術で説明するのが難しいことを長期的に観察するために指定されました。正式名称は、超常現象などに関わった国民を観察しつつも保護する経済特区” です。通称は、観察特区”
窓に目をやった俺は、ぼそりと呟く。
「東京の郊外で作ったまま放置された大学の跡地で、周辺の学生街も再利用……だっけ?」
特区は、大きめの有人島ぐらいはある。
突如として、アニメのような能力、物体が現れた。
混乱する日本で、すぐに行える対策が可決されたのだ。
それが、この観察特区!
保護すると言えば、聞こえはいいが、オカルトのように管理できないものを放り込んでおくゴミ箱。
申し訳のように、一通りの設備やサービスはある。
日本の法律が通用しないか、制限される特区では、最低限の衣食住が支給される。
「じゃないと、食い詰めた奴らが暴動を起こすからなあ……」
俺の名前は、水鏡才。
巨大な黒い人型……今になって思えばスライムを人に塗り固めたような物体に、知りたくもない宇宙の神秘をインストールされた。
日常生活が送れないまま、この観察特区に流れ着いた。
「というか、役所や警察までが『ここへ行け』と言うだけ」
あからさまに差別する態度にムカついたから、そう言いやがったバカどもには報復してやったが……。
「異能を使えるか、化け物に好かれるようにしてやったさ! まだ生きていれば、特区のどこかにいるだろう……。自分の言ったことが、ブーメランだな? ハハッ!」
お前の生きられる場所は、同じような奴らがいるところだけ。
「偉そうに喧嘩を売れば、どうされても当たり前だよな? 今度は、相手を見てから話せ……。次があればな? ただの中学生なら、普段の憂さ晴らしが許されるとでも?」
しかし、口座の残高をチェックして、ため息をつく。
「ふうっ! こりゃ電気を止められ――」
言っている傍から、ニュースの声が止まり、部屋が少し暗くなった。
「やっちゃったか……。あー! この前の調査で、クライアントが報酬を払わないから! 次の支給日まで、どうするかなあ? 冷蔵庫の中身も、すぐ調べないと」
今夜は、蝋燭で過ごすか。と覚悟を決めていたら――
ゴンゴンゴン!
玄関ドアが叩かれた。
そちらを見る。
ゴンゴンゴンゴン!
(チッ!)
心の中で舌打ちしながら、引き出しを開けた。
中にあるボロ布をどけ、右手でリボルバーのグリップを握る。
安物のソファーの後ろに滑り込み、屈んだ。
ほぼ同時に、外から鍵を回す音。
ガシャン!
中のチェーンが引っ張られて、音を立てた。
ペンチのようなカッターが差し込まれ、閉まることで、すぐに断ち切られる。
ガキンッ!
小さなジュース缶が、放り込まれた。
パアンッ!
凄まじい光と音で、目と耳が一時的に働かない。
ドカドカと足音が響き、黒いスーツを着た男たちが入ってきて、両手で構えるセミオートマチックの銃口がこちらを向く。
同時に、いくつもの緑色の線が室内をうろつき、俺を追い詰める。
(レーザーサイト? 照準のドットサイトじゃなく?)
そう思っている俺に、黒服の1人が叫ぶ。
「銃を捨てろ! すぐにだ!!」
下半身をソファーに隠しつつ、両手でリボルバーを持つ俺に、緑色の線が集まった。
一部は、周りをカバーしている。
息を吐いた俺は、トリガーから指を離す。
左手を上げつつ、前のソファーに銃を置いた。
すかさず、近い黒服がリボルバーを取り上げ、別の黒服が俺をボディーチェックした。
「問題ありません!」
その時に、若い男の声がする。
「ご苦労! 水鏡くん? 手荒な真似をして申し訳ないが、時間がないものでね……」
過去作は、こちらです!
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