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殺し屋は天女の羽衣を奪わない  作者: 真髪芹
第2章 呪いの胎動
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第13話 伝説の男(一)

 紅は、授業中こそ直人の隣にちょこんと座ってお行儀良くしていたが、休み時間になると直人にベッタリで、


「直くん、トイレまでエスコートしてっ!」

「しねえよ」


 あの無愛想と無表情の権化、《高天原の漆》に、懐きまくってじゃれつく美少女《高天原の玖》という組み合わせは、あからさまに興味の視線を集めていた。


 ……良くない。色んな意味で。


 直人は、長くなった前髪が鬱陶しい、そう言えば何ヶ月も散髪をしてないと思いつつ、チラリと視線だけで教室を軽く見渡した。


「おい、そこの5人セットの女子」


 直人の視線の的になった女生徒達は、ピタリと固まった。

 怖い。何もされていないが、笑った所を誰も見たことがないという高天原家の男、という時点で既に怖い。


「コイツを連れてって、連れ戻してくれ」

「コイツじゃなくてべにだよ。どこにー?」

「トイレだろ」

「行くー」


 紅は、人懐っこく女子の集まりに声をかけると、一緒に教室を出て行った。


(僕はね、直人には同じ年頃の友達と、楽しく過ごす時間を覚えて欲しいんだ)


 高天原家に戻って来た頃、継人の《影》になりたいと言った直人に、継人が困ったように微笑んで言った言葉。


 こんな気分だったのだろうか。紅を守るという《依頼》は受けたが、直人は出来るだけ紅を束縛したくない。

 保護という名目の不自由を不自由だと、そして、不自然だと気付いて欲しかった。


 紅は、かつて母親とふたりきりで逃避行――()()()()()()()()()()、学校に行くこともなく、友人もいなかった。

 母親がいてくれれば、それだけで幸せだったと言った。


 母亡き今は、どういう訳か直人を「運命の人」に指名して、直人が世界の全てでいいとまで言った。――まるで、最初に見たものを親だと思い込んで、付いて行く雛鳥のように。


 紅の特殊な生い立ちと、15歳という年齢を考えれば、今はまだそれでもいい。

 だが、紅は直人とは違う。たとえ、本当に、母親に手にかけていたとしても。


 紅は、学校という平凡な場所に憧れ、制服の仕上がりを楽しみにしていた「普通」の少女なのだから。


 少しずつ、距離を取っても大丈夫なようにしてやりたい。

 紅が、母親の遺言だという願いを叶えるまで――ふたりの契約関係が、終わるまでに。


「俺は少し用があるから、おとなしくしてろよ」

「うん!」


 と元気に言ったが、紅は何かを期待したキラキラした瞳で、直人を見上げている。

 直人は黙って、紅の小さな頭部に手をやって、ぽんぽんと(なだ)めてやった。


「えへへ、行ってらっしゃい!」


 紅が満面の笑顔で言うと、直人は背を向けて軽くひらりと手を振り、教室から出た。

 直人が去ってしばらくすると、女子がキャーッと言った。


「初めて見た! 幼児向けじゃないリアル頭ぽんぽん!」

「でしょー? 格好いいでしょー?」


 トイレに案内してもらった行き帰りで「お兄さん怖くない?」という質問に「怖くないよ! とっても優しいもん」という意外すぎる答えと共に、具体例として「頭ぽんぽん」が挙がったのだ。


「そっか……直人君、背が高いから決まる」

「絶対やらなさそうなのに……ギャップがいい」

「そーだよ。ときめきは意外性からなんだよ!」


 紅は得意気で、一見微笑ましい妹だ。


 歳が近い兄がいる女子は、兄にときめいている辺りが、ブラコンを通り越して危うい感じを(かも)しているような……と思ったが、高天原家のお嬢様には何も言わないことにした。


「じゃあね、僕が知らない直くんのお話、何でもいいから教えて? 僕は、つい最近高天原本家に来たばかりだから、まだ直くんのことよく知らないんだよ。みんなが直くんを怖がる理由になった、怖いお話でもオッケーだよ!」


「うーんと……怖いお話っていうか、大体は相手の方が悪いんだけど」


 直人が中学校に入学して間もない頃。その頃は特に長身という印象はなかった。というより、単に影が薄かった。


 直人が無口でおとなしそうな「七番目」だと知ると、高天原特権を忌々しく思っていた生徒や教師が、直人を狙っていじめを仕掛けた。


 紅が、ゆらりと椅子から立ち上がった。


「直くんをいじめたの……? 何処の誰? 僕、ソイツらひとり残らず呪い殺したいんだけど……?」 

「く、くれちゃん落ち着いて!」


 天女の美貌で殺気を放つと、呪いを通り越して、祟る女神みたいに怖い。


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