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くじびき勇者さま  作者: 清水文化
2番札 誰がお荷物よ!?
10/20

第2巻:第5章 夏風邪なんて大キライ

 オーマンドで(しゅう)(げき)事件の起こった翌朝(よくあさ)

「朝の礼拝(れいはい)(じゃ)(きょう)勇者(ゆうしゃ)が出なかったのですか?」

 再び襲撃の(じゅん)()(ととの)えていたブルーノのところに、そんな情報がもたらされていた。

「アサッシニオさま。勇者が礼拝に出ないことに、何か意味があるのですか?」

「大ありです。勇者は義務(ぎむ)として礼拝に参加するもの。なのに出てこないということは、裏を返せば、もう教会にはいないということではありませんか」

 ヒゲ(づら)の第6隊長の()(もん)に、ブルーノが(くや)しそうな顔で答える。

「こちらの再襲撃を見越して、朝の礼拝が始まる前に旅立ったのでしょう。従者の()(むすめ)が病気のようでしたが、このグレーシィ地方は運河が発達してます。平底舟(ゴンドラ)や水上バスで移動すると考えれば身体(からだ)への()(たん)は小さくて済みますから、有り得ない話ではありません」

 そう言いながら、ブルーノが地図を広げた。そして、

「これからまた大変な追撃戦(ついげきせん)になりますね」

 と(こぼ)しながら、これから2人の向かいそうな町を拾い上げていく。

 ブルーノの周りにいるのは、15人の男たちだった。昨日(きのう)の襲撃で一時は5人まで仲間が減ってしまった。だが、遅れてオーマンドに到着した者が加わったのだ。他にも各地に仲間がいる。これからも数は(ふく)らみ続けるだろう。

「部隊を4つに分けましょう。第1隊長の隊は北へ、第3隊長の隊は南へ、第6隊長の隊は西へ向かいなさい。残りはわたしと一緒にマゼリオンで(たい)()します。いいですね」

『はっ!』

 ブルーノの言葉に、部下たちが声を合わせて返事した。

「では、散開(さんかい)します」

 ブルーノの言葉を受け、部下たちが別々の方向へと分かれていった。

 これからまた相手も見えず、行き先もわからない追撃戦が始まるのだ。



 それから更に5日後、

「うわ〜。この記事では何もわからないではありませんかぁ〜!?」

 (てい)()にいるクラウが、新聞を広げて頭を(かか)えていた。

(たい)(ちょう)殿(どの)。何かあったのですか?」

「何かがあったから(あせ)ってるのです。でも、何があったのかわからないから困るのです」

 そう言うクラウは、なにやら取り(みだ)しぎみになっている。それに首を傾げた部下が、

「ああ、ソロリエンス新聞ですか」

 新聞を見て勝手に納得(なっとく)した。

「記事によれば8月5日、勇者(ゆうしゃ)がオーマンドに立ち寄ったところを、ドラゴン教の(きょう)信者(しんしゃ)(しゅう)(だん)(しゅう)(げき)したとあります。でも、勇者が神の宿(やど)ったフライパンで敵20人以上を倒したとか、神が(しゅく)(ふく)()(ぶき)で建物の壁を倒して通りにいた()(きょう)()全滅(ぜんめつ)させたとか、とても有り得ないことばかり書いてあるのですよ。記事になる以上は何かあったのでしょうけど、何が本当なのか……」

「ソロリエンス新聞の記事ですからねぇ。真実1割、ウソ9割じゃないですか?」

「はぅ〜。それでは何もわかりませ〜ん」

 涙目になったクラウが、広げた新聞の前でがっくりと(うな)()れている。

「そう言えば昨日(きのう)の新聞の見出しは『ついにドラゴン病の()牲者(せいしゃ)出る。2名も』でしたけど、記事を伝えるのがソロリエンス新聞ですからねぇ。またガセネタかもと思うと……」

「すみません。今は何も言わないでください」

 話しかけてくる部下の言葉を、クラウが(しず)んだ声で(さえぎ)った。そのクラウがまた頭を(かか)え、

「メイベルちゃ〜ん。ご無事ですかぁ〜?」

 激しく身もだえながら(さけ)んだ。何もわからない歯がゆさが何よりもつらいのだ。

 そんなところに、

「クラウさ〜ん。ナバルさんからお手紙が(とど)きましたよぉ」

 と言って、()(ばこ)(かか)えたパセラが近衛(このえ)(たい)()(しょ)に入ってきた。

「おお、これはメイベルちゃんの友人Aくん。良いところに来てくれました」

 手紙と聞いたクラウが、表情をパアッと明るくした。手紙となれば情報の(しん)(ぴょう)(せい)は、(あや)しい新聞記事よりもはるかに高い。その情報源を持ってきたパセラを、クラウが()いているイスを引いて歓迎(かんげい)ムードで(むか)えた。

 クラウに軽くお礼を言って、パセラが小箱を抱えたまま引かれたイスに腰を下ろした。

「お持ちの小箱は、旅先からのお土産(みやげ)ですか?」

 パセラが話し始めるよりも早く、クラウが小箱に強い関心を寄せる。だがパセラが、

「あ、この箱はアウル(はか)()(あて)です。メイベルが旅先で集めた、(しょく)(ぶつ)(ひょう)(ほん)ですよぉ。お持ちする途中なんですぅ」

 と言って箱の中を見せたことで、急速に関心を失っていった。ちなみに箱の中は透明(とうめい)な袋に入れられた、乾燥(かんそう)した草本類(そうほんるい)である。

 その標本と一緒に、白い封筒(ふうとう)が入っていた。封筒はすでに開封(かいふう)されている。その封筒を出したパセラが、中から半分に折り(たた)まれた便箋(びんせん)を取り出した。それを見るクラウが、

「あれ!? そういえば手紙の差出人はナバルなのですか? メイベルちゃんじゃなくて」

 という疑問を口にする。それにパセラが便箋を広げながら、

「あぁ、言われてみればそうですねぇ。標本はメイベルのものなのに……」

 と(はじ)めて気づいたように言って、顔を上げた。だが、すぐに視線を落として、手紙を読もうとする。

「手紙はいつどこから出されたのですか?」

 何か悪い予感がしたのか、クラウが送り場所を尋ねてきた。それでパセラが便箋(びんせん)から視線をはずして、小箱に書かれた宛て名書きを確かめる。

投函(とうかん)()は8月6日。場所はオーマンドって書かれてますねぇ」

「オーマンドぉ!?」

 場所を聞いたクラウが、思わず大きな声を上げた。そのクラウの手が、新聞をグシャリと(にぎ)っている。

「どうされたのですかぁ?」

「いえ、続けてください」

 クラウが大きく(しん)()(きゅう)して、パセラに手紙を読むようにうながした。

「えっと、『おまえら、元気か? (おれ)たちは(いわ)(さん)(みゃく)を越えて、今、オーマンドにいる。これを書いた前日、5日の日にドラゴン教徒が(おそ)って来やがった。どこから()ぎつけたか知らんが、(かえ)()ちにしてやった。俺たちは無事だ。心配するな』だそうですぅ」

「5日の襲撃は事実だったのですか? でも、2人とも無事なら何よりです」

 手紙の内容を聞いたクラウが、そう言って胸をなで下ろす。

「それと、追伸(ついしん)がありますよぉ。読みましょうかぁ?」

「はいはい。読んでください」

 心配事のなくなったクラウが、軽い気持ちで答えた。(にぎ)(つぶ)していた新聞は、もういらないとばかりにテーブルの(すみ)(ほう)り捨てる。

「それがですね。『追伸、メイベルさんが(なつ)風邪(かぜ)(たお)れた。熱を出して動けないみたいなので、司教と話し合って数日、オーマンドに(とど)まることにした』だそうですぅ」

「なんですってぇ〜!?」

 (あん)()したのも(つか)の間、また心配事ができてしまった。

「メイベルちゃんが夏風邪で倒れた? 熱を出して動けない!? それはメイベルちゃんの一大事です!」

 血相(けっそう)を変えたクラウが、(あわ)てて部屋の(おく)へ駆けていった。そこで手にしたのは、(きん)急出(きゅうしゅつ)動用(どうよう)に用意された携行(けいこう)(そう)()(ひん)()めたバッグだ。

「隊長殿。どちらへ行かれるのですか?」

 慌てた部下がクラウの前で通せんぼしてきた。

「メイベルちゃんの(かん)(びょう)しに、オーマンドへ行ってきます」

「ここからオーマンドまで、何日かかると思ってるんですか?」

 出かけようとするクラウを、部下が押さえてでも止めようとする。パセラも、

「そうですよぉ。手紙を出したのは6日で、今日はもう11日ですよぉ。もうメイベルの熱は下がって、また元気に旅立ってますぅ。もうオーマンドにはいませんよぉ〜」

 と言ってクラウの引き止めに加わった。

 パセラの言う通り、夏風邪ならば2〜3日もすれば熱は退()く。それにオーマンドへ行ったところで、到着するのは早くても4日後だ。頭の中では自分が行っても何もならないと理解している。だが、

「でも、でも……ですね……」

 頭と気持ちは別物だった。クラウは自分の気持ちを(おさ)えられず、(はげ)しく懊悩(おうのう)している。

 それでも、どうにか出発することだけは思いとどまり、

「メイベルちゃ〜ん。ご無事ですかぁ〜?」

 詰め所にある西側の窓を開けて、オーマンドの方向へ大声で(さけ)ぶのだった。



 さて、その頃、メイベルはというと、

「熱がなかなか下がりませんな」

 今もオーマンドにある教会に(とど)まり、ベッドに寝かされていた。

正修道女(レディ)メイベル。あなたのお作りになった薬について、こちらでいろいろ調べてみました。これからその結果を報告します」

 そのメイベルを診察(しんさつ)する医師(いし)診療簿(カルテ)を置き、静かに話しかけてくる。(はく)()をまとった杉2本の医師(ダブル・シダー)だ。この教会に住む正修道士で、白衣の下に青い修道服を着ている。

「正直申し上げて、あれほど素晴(すば)らしい配合(はいごう)の薬を見たことがありません。わたしたちは必要に応じて薬剤(やくざい)を加えていく調(ちょう)剤法(ざいほう)しか知りませんが、正修道女(レディ)メイベルのあらかじめ薬剤(やくざい)ごとの成分(せいぶん)分析(ぶんせき)しておき、そこから求める成分パターンに近い配合をパズルを()くように求めるやり方は、大変に(かっ)()(てき)な調剤法です」

 医師がメイベルの調剤法を調べ、その素晴らしさを()(たた)えてきた。

「それで強力(きょうりょく)()熱剤(ねつざい)をお作りなられただけでも(きょう)(たん)してますが、免疫(めんえき)増進剤(そうしんざい)というお考えがまた素晴らしい。自分の免疫(めんえき)(りょく)を高めて病気を(なお)させるとは、かつてない大胆(だいたん)発想(はっそう)です。強い薬には強い(ふく)()(よう)が付き物ですが、免疫増進剤ならば厄介(やっかい)な副作用は(かい)()できるわけですな。しかも薬を飲んでから30分以内と即効性(そっこうせい)まであるのは(きょう)()です」

 しかし、(しょう)(さん)の言葉とは裏腹(うらはら)に、医師の口調は低く(おさ)えられている。その理由は、

「ですが、正修道女(レディ)メイベル。あなたは大きな(あやま)ちを3つも(おか)しました。1つめは解熱剤と免疫増進剤を同時に服用(ふくよう)したことです。活性(かっせい)()された体内の免疫(めんえき)()(こう)が、解熱剤を()(ぶつ)として排除(はいじょ)したようですな。それが解熱剤を飲んだのに熱が下がらない理由です。しかも解熱剤が強すぎた分だけ免疫機構の反発も強まり、長く高熱が続いてると思われます。それから2つめの(あやま)ちですが、それは免疫増進剤です。免疫力を高め、それで病気を治すというお考えは素晴らしいのですが、免疫力を高めるためにはそれ相応(そうおう)の体力を(しょう)(もう)するようです。要するに風邪と魔法の使いすぎで、体力が落ちている時に使ったのが大きな(あやま)ちですな。そして3つめはお薬に問題があるかもしれないので飲まないようにと申し上げたのに、早く治したい余りこっそりと飲み続けていたことです」

 そう言われたメイベルが、()(とん)の中でビクッと身体(からだ)(ふる)わせた。

「そのご様子ですと、今朝(けさ)もこっそりと作って飲みませんでしたか?」

「さあ、それは……」

 冷たい視線を送ってくる医師から、メイベルがそうっと視線を()らせる。

 ところが、医師の反対側にはナバルが立っていた。

「飲んでたよな。しっかり見てたぞ」

「それは……」

 どんどん()(ごこ)()の悪くなってきたメイベルが、ついに()(とん)の中に(もぐ)っていた。

 メイベルは自分の持つ(しょう)(やく)に関する高い知識を()かして、医師が絶賛(ぜっさん)するような薬を作り上げた。それは大変に素晴らしいことだ。だが、それはあくまでも本などで学んだだけの知識。実践(じっせん)経験(けいけん)(とぼ)しいため、知識の落とし穴に気づいてなかったのだ。

「メイベルさん。お荷物でもいいとは言ったが、()(だい)ゴミはやめろとも言ったよな!」

 頭まで潜り込んだメイベルに向かって、ナバルがそんな(もん)()をぶつけた。そして、

「先生。夏風邪の()(りょう)ついでに、こいつのバカも(なお)してやってください」

 と、メイベルを指差して、そんなことを言ってきた。それに医師が、

「う〜ん。それは不治(ふじ)(やまい)だからねぇ」

 と、困った声で答えてくる。

「ゔぅ〜……」

 (くや)しさで(うな)るメイベルが、布団からチラッと顔を出した。目に涙を浮かべてナバルを(にら)んでいる。そのメイベルを、ナバル、医師、見習い修道女たちが冷たい目で見ていた。

 冷たい(ふん)囲気(いき)にいたたまれなくなったメイベルが、また布団の中に潜っていく。

 そして、この雰囲気に(こら)え切れなくなったメイベルは、布団に潜ったまま、

「もうイヤだ。夏風邪なんて大キラぁ〜イ!」

 と(ぜっ)(きょう)するのだった。

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