贄
この帝国には力があった。
皇族達は神獣の血を引く魔力溢れる力を身に宿していた。
その魔法力で他国の軍勢をなぎ倒し、領土を侵略していく。
子々孫々の魔力を衰えさせぬ為、高位貴族は魔力の多い者との婚姻を行い生まれた子供を皇帝に捧げた。
婚姻と言う名の下に、多くの高位貴族の娘が側妃として城にあがる。
嫁いだ娘の親は皇帝から権力や金銭で潤うが、娘は子を1人生むと姿を消した。
歴史的に第一子が一番強い魔力を受け継ぐ傾向にあり、第一子より劣る者は不要と思われていたせいで、第二子を孕む妃はいなかった。
それどころか、大きな魔力を持つ赤子を産むのは大変な難産で、命を落としたとか起き上がれぬ重症だと囁かれ、二度と再び家族と会うことは叶わなかった。
それが当たり前の世となり、高位貴族の魔力高き娘は教会で幼き時に魔力判定を受け、側妃になることが決まる。
当主はその瞬間から、娘を側妃として恥ずかしくないように厳しい高等教育を施していく。
魔力訓練もその一つだ。
情をかけて別れが辛くなる親はいるが、その一方で見返りの権力や金銭をあてにし、豪遊する者や魔力の高くない愛人を傍に置く者がいるのは事実。
報奨金が出た後に妻と離婚し、愛人と再婚する者もいたくらいだ。
いつしか子を愛する者ほどこの法を嫌い、結婚相手に魔力の低い者を選ぶようになっていた。
だが国の存続の為だと宣う皇帝達は、一家門一人以上は要求しないことを条件として魔力の高い者同士の政略結婚を継続させた。
その結果各高位貴族内にも、強い魔力保有者が残ることになるのだ。
「おぎゃー、おぎゃー」
フィーナ・ブラルケットは本来ブラルケット公爵家の第二子として生を受けたが、第一子として届け出が出ている。
ブラルケット公爵は一度結婚していたが、その妻子を愛するが故に離縁したままで本邸で生活させ、フィーナの母と再婚したのだ。
愛する妻の元に生まれた子、ブルガリが高魔力を秘めていたことでの救済処置だ。
第二夫人を娶っても順番は覆せないので、彼女らの身分を一時的に平民にして愛人としたのだ。
何れフィーナが嫁いだ後で、貴族籍に戻すつもりで。
それにはブルガリの母、ランテを愛する彼女の両親も賛同にまわった。
そしてフィーナの母、キンバリーの両親の了承さえも、多額の金銭を渡すことで話を取り付けたのだ。
愛する家族を守る為に、愛されない結婚をしたことをキンバリーは知らされていない。
いわば彼女もこの役割(商売)の為に育てられた子供だったので、余計な情報を与えられていなかった。
もしフィーナの前にキンバリーに男児が生まれれば、生まれた時点で命はなかったが、幸いなことにそうはならなかった。
そんな絶望の中で家族に愛されず生きていたフィーナは、意地の悪い執事兼教育係から様々なことを学んだ。
キンバリーさえ知らない裏事情さえも。
そしてもうすぐ16才になり、皇帝に嫁ぐフィーナの前に現れたのが雨の日に倒れていた彼女だった。
そんな彼女の名も『フィーナ』だと言う。
フィーナは思う。
きっと自分は子を生めば死んでしまう運命にある。
ならば同じ名の彼女には、自分の分まで生きて欲しい。
だから彼女は小さき者に微笑んだ。
「勉強をしてみませんか?」と。