終幕のあと
1/28 ちょっと消化不良だったので、付け足してみました。読んで頂けると嬉しいです(*^^*)
フィーナが過去に戻った時、ケアンフトの母ダイアナにかけられていた呪いは解けた。
そして肉体を無くしたケアンフトの魂は、既に肉体を離れた赤ん坊の肉体に入りダイアナに保護されたのだ。
全てはキンバリーの手による愛の奇跡。
そのキンバリーは、この夜に肉体から離れた赤ん坊の魂と共に天に向かった。
もうこの世界に存在しない。
フィーナ、マリア、ダドリー、ロンダの魂は、10年前の肉体に戻り、平民として生きていた。
10年後の出来事を知るアドバンテージを生かし、戦争の起きない場所を選んで暮らす。
身を隠す為に隣国に渡った4人。
そして、その地の民からある噂を聞く。
「隣国でお家騒動があったらしい。
病弱であったブラルケット公爵のフィーナ令嬢の代わりに、何故かブラルケット公爵家の妾とその娘が嫁いだそうだ。
けれど国王の怒りを買って殺害されたらしい。
妾の生家も何らかの犯罪に関わったらしく、捕まったらしいぞ」
4人は思った。
「そうか、ランテとブルガリは亡くなり、ランテの生家の伯爵家にも捜査の手が入ったのか」と。
真実を知らない彼らはもう、それで納得した。
憎むべき者は既に居ないのだ。
その後も自国では他国との小競り合いを繰り返したようだが、魔法による大規模な殺傷は行われなかったと聞く。
話し合いにより休戦や和平条約が結ばれたそうだ。
病気で臥せっていた国王が亡くなり、王太子ヴィルマルクが王位に就いたことで、変革が起こったのだとも。
「もうあの国は変わったのかな?」
「どうだろう? 平和が続くと人は怠慢になる。今後も努力が必要だ」
「もう戻らない場所だけど、側妃制度はなくなったそうよ。それだけでも良かったと思うわ」
「もう! 辛気くさい顔は止めよう。美味しい肉でも食いに行こうぜ!」
「もう、ロンダお兄ちゃんったら。でもそうね。お腹すいちゃたわ」
「そうそう。マリアお母さん、ダドリーお父さん。早く行こうよ」
「そうだね」
「そうね。行きましょうか」
他人から見れば仲の良い家族だが、血の繋がりはない。
逆に血の繋がるティアジルとフィーナのような、冷たい関係もある。
貴族には多いのかもしれない。
フィーナがそれを気にすることは、もうないけれど。
◇◇◇
マリアは服飾の流行りを覚えていた。
流行る前に大量のレースとビーズを購入し、ひたすらにドレスに付けられる長さに編み込んでいく。
彼女の優しい雰囲気は、住居周囲の人達に受け入れられ馴染んでいく。
フィーナの幼い手ではレースは編めないので、貴族令嬢の記憶を頼りにビーズを花や蝶のように縫い付ける手伝いだ。
記憶は15才、もうすぐ16才になる大人だったのでもどかしい。
けれど食事の仕度を手伝ったり、お使いをしたりと忙しく動いていた。
ダドリーは筋肉隆々の厳つめの30代に戻ったが、フィーナの傍を離れるのを厭い、大工の見習いになった。
これから発展する地域で、建物が次々と建つので仕事には溢れなさそうだ。
見た目以上の包容力(中身は40代)で、新人ながらも覚えも良くいろいろと仕事を任され、周囲を纏め出すのは人徳だろう。
ロンダは港で働いていた経歴を生かし、再び港での荷運びの仕事に就いた。
貴族と関わっていた時の言葉遣いを駆使しながら、丁寧に他者と関わると人気が出ていた。
金髪の青い瞳で鼻梁も通った美男は、貴族の隠し子や没落貴族ではないかとも言われていた。
人当たりが良く、うまく溶け込めているようだ。
荷運びから荷の検品係へ回されたのも、接客態度の賜物なのだろう。
そんな4人は穏やかに生活し、丁度10年が過ぎた。
平和になった自国(元いた国)は周辺国と和平が進み、渡航が比較的容易となった。
フィーナ達が隣国へ逃げた時は混乱で移民が多く、隣国での国籍取得は容易だった。
軍に村を焼かれて逃げたと届ければ、受け入れられた程に。
平和になった今は、もうそれは難しいだろう。
「お墓参りに行きましょう。あれから丁度10年だもの。それに熟練の技術で編み上げた、繊細なレースも売り込んで来たいわ」
「ああ。俺も久々に旅行がしたいと思ってたんだ。気が合うな」
「俺も故郷のご馳走が食べたいよ。行こうぜ」
「………みんな、ありがとう。ありがとう」
マリア達は気づいていた。
自らを犠牲にしてフィーナ達を助けた、キンバリーの墓参りを彼女がしたいことを。
だから彼らから提案したのだ。
それが分からないフィーナではなかった。
その後みんなの仕事の調整を行い、自国へと渡航したのだ。
◇◇◇
国王となったヴィルマルクはフィーナを探したが、依然として手がかりは見つからなかった。
失踪時黒髪と薄紫の瞳をしていた彼女は、成長し赤い瞳とプラチナの髪に変わっていたからだ。
王国総出で何年も懸賞金を付けて、黒髪と薄紫の瞳の女性を探していることを知るフィーナ達。
ダドリーが情報屋から詳細を聞くと、今の国王が行方不明になった公爵家の令嬢を、贖罪の為に探していると言う。
先代国王の罪として。
そしてブラルケット公爵ティアジルは、数年前に自殺したことも知った。
今ブラルケット公爵家は国が管理しているそうだ。
「そう。お父様も亡くなったのね」
そう呟くフィーナには悲しみは感じられない。
(私は冷たい娘ね。実の父親が亡くなったというのに……)
もし生きていても、会いたいと思わなかった。
けれどもう永遠に会えないと思うだけで、それでどうとも思わないのだ。
それだけ思いは薄れていたから。
国王ヴィルマルクは慰霊碑を立て、戦死者や歴代の側妃達を奉っていた。
王都にある公爵領には平民は入れない。
だからフィーナは、この慰霊碑で母の冥福を祈った。
(お母様。私は元気で生きていますわ。与えて下さった命を大切に使いますね)
マリア、ダドリー、ロンダも、助けてくれたお礼とこれからもフィーナを守ることを誓う。
(キンバリー様。安らかにお眠り下さい)
(フィーナ様は元気にしておりますよ。安心して下さい)
(俺はこれからも彼女を守ります!)
その後気持ちを整理したフィーナは、国王に宛てて1通の手紙を書いた。
フィーナ・ブラルケットと氏名を書き、筆跡鑑定をして下さるようにと前述もして。
「ヴィルマルク国王様へ
長く連絡をせず、申し訳ありませんでした
私を探していることを知ったのは、つい先程でしたのでお許し下さい
私は側近達と亡命し、既にこの国の者ではありません
今日はたまたま、母の墓参りに伺っただけなのです
国王様の働きでこの国の経済は安定し、独裁政治から解放された民の表情は豊かですね
以前よりイキイキとされているような印象を受けました
国を捨てた私に爵位は不要です
是非、国の貢献者に託して下さいますよう願います
私のことを案じて探して下さり、感謝致します
民の為に是非ご自愛を
旧姓フィーナ・ブラルケットより」
手紙を郵便屋に依頼し、王都の街を4人で巡る。
マリアはレースを装飾店に売りに行き、隣国よりも多めに収入を得たとホクホク顔だ。
その資金でレストランに行き、普段より豪華な晩餐を食べた。
町並みは整備されたくさんの新しい店も増えた。
以前の15才の記憶の時よりも発展している気がする。
平和の世は流通も良くなり商業も発展するのだろう。
10年離れた自国は既に別の場所だ。
以前に知り合った者も今は他人だ。
マリアやロンダの知り合いも、本人自体の人相も変わっているし、仮に覚えていても10年交流がないのに声をかけてくる者は稀だろう。
今回は完全な旅人として過ごしている。
「フィーナは良いの? 望めば全てが手に入る公爵令嬢になれるのに」
ロンダが尋ねるも、フィーナは笑顔で答える。
「10年も自由を知った人間が、今さら戻れる場所ではないわ。それぐらいは分かっているつもりよ」
「そうだな。こんなにお転婆な女の子は、貴族になれやしないな」
「そんなことないわよ。可愛くて優しくて、ご飯も作れる最高の娘だもの! 全く、ロンダはいつも毒舌なんだから」
「そうだぞ、ロンダ! フィーナは優しいぞ。政略結婚なんかさせられない大事な子だ。嫁に行かない選択肢もあるしな。わははっ」
「ちょっとお父さん。私はいつかお嫁に行くわよ。ウエディングドレスを着るんだからね」
「相手もいないのに、無理しちゃって!」
「ロンダお兄ちゃんは黙っててよ。いつかきっと、王子様が現れるんだから」
「王子を望むなら、やっぱり公爵令嬢に戻った方が現実的じゃ 「例えばよ、お母さん。本当の王子なんて望んでないし」 そうなの? 本当に?」
「まあ今は良いだろ。新しい店でも見て回ろうぜ!」
「そうね」
「賛成」
「帰る前に港の市場にも行こう」
「おお、さすが港の倉庫番ね。どんなものを取り扱うのか確認したいのね」
「さすが、有能だと噂の息子様だ」
「お見合いの釣書も来てるんでしょ? モテモテね、お兄ちゃん」
「何だよ、いきなり。俺は一途だから、もう相手は決めてるの。釣書は全部断ってよね」
「誰よ、ダレダレ?」
「ムカつくなぁ、本当。俺の気も知らないで」
マリアもダドリーも本当は気がついている。
偽りの家族だったが、マリアとダドリーは好き合って本当の夫婦になっていた。
だからこそ、ロンダの気持ちにも敏感なのだろう。
ロンダはフィーナがずっと好きなのだ。
かれこれ前回の御者歴が5年、過去戻り後の時間が10年一緒にいて、その11年程を恋しているのだ。
フィーナもロンダが好きだが、家族として過ごして来たことで諦めていた。
「本当に好きなら、2人が結婚できる道もあるぞ。2人が戦災孤児で、本当は他人だと話しているから。
隣のルーホップさんが、養子にしても良いと言ってくれていたんだ。
確かロンダの職場の上司だったな」
「本当ですか? って、いや今言われても、フィーナが困るよね。ああ、どうしよう!」
余裕なマリアとダドリーに対して、慌てるロンダと頬を染めるフィーナだ。
マリアとダドリーは最初から気づいていた。
だからこそ2人が本当の兄妹ではないと、周囲に漏らしていたのだ。
フィーナの気持ちは、ロンダに比べれば小さいものかもしれない。
けれど共に暮らした時間は、確かな信頼をもたらしていた。
(たくさん傷つきながら頑張ってきたフィーナを、今度こそは幸せにしてあげたいんだ!)
ずっとそう思いながら、以前の時間軸のフィーナを振り返り決意を固めるロンダだ。
フィーナも以前の時間軸の時に、身を挺して庇ってくれたロンダを思い続けていた。
その時の気持ちは愛であったか分からない。
けれど共に過ごした期間で、知らないうちに愛に変わりかけていたことに気づいたのだ。
そんな2人は今、改めて意識し始めた。
いつも一緒なのだから、焦ることもない。
ロンダはフィーナの態度次第では、一生兄として生きるつもりだ。
フィーナの幸福が彼の幸福だから。
でも……………。
どうやらフィーナも、気持ちを抑えることは止めたような顔つきだ。
どうなることかは、まだ分からないけれどね。
思考を悩ますフィーナに、男の子が花を渡す。
「綺麗なお姉さん。お花をあげるから僕と結婚しよう」
「えっ、結婚?」
「駄目、ダメ。フィーナは俺のだから!」
「えっ、えっー! ロンダお兄ちゃんってば!」
「あ、ごめん、ごめんよ!」
大慌てしている2人を見て、チェッと言いながら去っていく男の子。
「もう、駄目じゃないケアンってば。お店のお花をまた持ち出して! 恋人の邪魔をしたら、馬に蹴られるのよ!」
「えー、痛そう。もう邪魔しないよ!」
「約束よ、おませさん。今日は午後休みだから、パフェでも食べて帰ろうか?」
「うん、賛成。お母さん、大好き♡」
「もうこの子は。調子良いんだから。フフっ」
幸せそうな母子は、手を繋いで去って行った。
◇◇◇
ヴィルマルクは手紙を受け取り、筆跡鑑定も行ったことでフィーナからだと確認した。
「ああ。生きていてくれた。…………幸せなんだな、きっと。良かった、生きていてくれたんだなぁ」
涙ぐむ彼の眦を、傍にいた王妃がレースのハンカチで優しく拭う。
彼は父親の罪をずっと背負っていた。
国を導いて豊かになっても、ずっとずっと。
自分がもっと早く異変に気づけば、出来ることがあったのではないかと。
今やっと一つ、重荷を降ろすこと出来たのだ。
まだまだ彼の役目は多いが、あの日居なくなった子供に対しての心配だけはなくなった。
泣いているじゃないかと、いつも気にかけていたから。
彼は優し過ぎるから、いつも王妃や姉達に心配されていた。だがその温かい気持ちを糧に、前を向いてきたのだ。
「彼女に寄り添うものがいて、これからも幸せに過ごせますように」
そう願う彼には、今後もたくさんの祝福がもたらされるだろう。
ここは魔法の国で、女神の見守る国なのだから。




