終幕
その後の魔法国は、魔法を吸収する魔道具の紛失を隠しながら戦力を整え出しだ。
騎士を集めて編成し、遠方へ攻撃できる武器の作成にも取りかかった。
王太子ヴィルマルクは、信頼できる側近達と協力し改革に乗り出す。
魔道具に頼らない国家へ変わる為に。
怠惰により戦うことを厭う貴族達には、役職を次第に外し閑職へと追いやった。
厭う理由が「急に戦力が増すことで内乱に繋がる」と憂える者には、国の現状を伝え協力を仰ぐことになった。
その話の中で側近以外の貴族は、魔道具が王族の命を奪ってきたのだと知り愕然としていた。
前国王のせいで更に多くの被害が出たことも。
何故止めてくれなかったと言う、娘を側妃に取られた父親達には正直に「止めた忠臣達は皆殺された」と伝えた。
王太子ヴィルマルクさえ、忠臣達を庇い国王を止めたようとした時に、攻撃され腹部に大穴が開き致死寸前であった。
それを治癒の力を持つ彼の姉妹達が治したのだ。
酷い傷痕は完治せず、傷の接合部には今も僅かに窪みがあり当時の惨状が思い出される。
それをもって、殆どの貴族が協力してくれることになった。
それでも争いに抵抗がある者には、秘密保持の魔法をかけて亡命を許した。
彼らは決して敵対しないと誓ったけれど、向かった国の状況によるから確約は出来ないだろう。
全て分かった上で頷くことにしたヴィルマルク。
そしてこれを機に商会を持つ貴族の中から、平民となり完全に商人へとなる者も現れた。
取りあえず王室御用達となるが、利益のそれほど見込めない狭い国内に縛ることなく、自由に商いをすることをヴィルマルクは勧めた。
その寛大な恩に報い、商人達が諜報活動をして協力していくのはその後の話である。
王国の中で強大な力を持つ者は、王族のヴィルマルクとその姉妹のみ。
貴族家にも魔法を使える者もいるが、訓練をしていない段階では戦力にはならない。
その魔法による戦力も、今後急速に衰退するだろう。
そして伯爵家が予備で作製していた空の魔道具が、手元に2つ残されているだけだ。
◇◇◇
その後の魔法国は極力戦争はせずに、話し合いで戦争を避けた。
それでも侵攻するする国には、ヴィルマルクや戦力特化の姉が先頭に立ちそれらを退けた。
その傍らには騎士団も馳せ参じて残党狩りをした。
以前より執拗に追いたてられ戻ってくる騎士が少なくなったことで、敵国は魔法国の異変を感じていた。
少し前なら大振りな魔法一つで終えていた争いだったから、後方にいる初陣や記念参加の高位貴族には損傷はないはずだった。
魔法国が容易に攻めてこないような、パフォーマンス的な意味合いの侵攻だった。
何もしなければ他の国のように、簡単に植民地化されてしまっただろうから。
でも今回は根こそぎ殺された。
無事に戻ると思っていた者も全て。
そもそも戦争に安全なんて言葉は無意味なのだ。
当然の如く、魔法国にも死傷者は出た。
当然の結果だった。
けれどこれはヴィルマルクが各当主家に尋ね、賛同した家のみが赴いた為混乱には到らなかった。
夫や息子を亡くした妻や母親は悲しみ嘆いたが、その功績に応じて爵位の変動があると聞けば何も言えなかった。
貴族でいたければ、戦争に参加することも義務になったのだ。
今までは王家が全て請け負い独裁を築いたが、今は責任を負う貴族家も対等に発言を許されている。
王家の発言が一方的にならないに、側近達により議会が作られたからだ。
ヴィルマルクは、たくさんの意見を公に聞くことを望んだ。
それがきっと不満を解消し、自国の者の幸せに繋がると考えたのだ。
歪な王家の考えだけでは、生き残れないと思っていたから。
ヴィルマルクは今も国王代理のままである。
そしてある噂が、市井に流れ始めた。
「ブラルケット公爵家の妾とその娘が、病弱なフィーナ様の代わりに嫁いだが、国王の怒りを買って殺害されたらしい。彼女達の生家も何らかの犯罪を犯したらしく、捕まったみたいだぞ! 大変なことだ!」
威張り散らし評判の良くなかった伯爵家の惨事に、他人事だからと祭りのように賑わう民衆達。
噂のはずだが、その殆どが真実だった。
伯爵家では国王頼みの悪事が成され、多くの大金がその家門に流れていた。
裏で泣き寝入りした者が多く、恨まれていたのだ。
だからヴィルマルクは密かに調査を行い、罪を暴き出した。各人にそれ相応の罰を与えていく。
罪なく弱き者は家門が倒れれば生きていけないから、ブラルケット公爵家に雇うように命令した。
ティアジルに拒否権はない。
但し伯爵家から押収した資金の多くを彼に渡し、教育して外に働きに出すなら許すと追加で厳命もされた。
ティアジルは公爵家の資金が尽きる前に、多くの伯爵家の者を教育することになった。
ただ国から放出することや辛い状況に落とすことは許されない。
彼にはヴィルマルクから派遣された秘書官と言う名の監視が多くつく。
一挙手一投足が見られているのだ。
それが彼への罰だった。
ランテとブルガリ、ランテの父伯爵達がやらかした罪にしては、軽い方なのかもしれない。
なんせ降爵もしないのだから。
ただその裏には、キンバリーの無念がヴィルマルクの胸に強く焼き付いていた。
家族に愛されずティアジルに嫁ぎ、幸せになれると思った途端に愛人母子に嘲笑われる地獄。
それも大事に育てた娘が、不幸になる未来まで囃し立てられて。
その上自分のせいで護衛騎士は殺され、自身も体が動かせぬまま蹂躙されてきたのだ。
ただ意識だけがある状態で。
キンバリーの娘、フィーナはまだ見つかっていない。
けれど死体も発見されていない。
その同時期に供回りも消えたことから、生きている可能性を見いだしていた。
彼女が生きていれば、このブラルケットを彼女に渡そうとしていた。
受け取った後なら彼女が継ごうが潰そうが、国に爵位を返そうがどれを選んでも良い。
家を捨てるなら、使いきれない金銭を渡そうと考えていた。
それでも国王が犯した罪は、消えることはないのだが。
魔法国が以前のように他国に侵攻することはなくなり、他国からの侵攻に対応するだけになったことは、各国に徐々に知られることとなった。
きっと国王が病に伏し、王太子ヴィルマルクが指揮を取っているからだと噂され、魔道具のことには触れられなかった。
その甲斐もあり、平和路線で経済的な話し合いを持つことに繋がったのは僥倖だった。
ヴィルマルクが実質の王だと認められた頃、国王崩御の発表がなされた。
彼が城を制圧してから、おおよそ5年が経過していた。
◇◇◇
国王はいつ殺されるのかと戦々恐々とし、既に屍のように痩せ細っていた。精神は崩壊し、心は死んでいる状態だった。
ヴィルマルク達が手を出す前に、流行り病に罹り亡くなったのだ。
権力に溺れた末路だった。
ヴィルマルクにしてみれば、常に多忙で国王に構う余裕がなく生きながらえさせた形だが、忠臣達が彼に親殺しをさせないように画策したのが事実だった。
これ以上彼の心を辛くせぬように。
反面ランテとブルガリは違った。
ここまで来れば、後数年償えば(ここにいれば)釈放されると思ったからだ。
「お父様も、ティアジルもぜんぜん面会に来ないなんて! きっとあの王太子が邪魔をしているんでしょうね。嫌になるわ」
「きっとそうですわ、お母様。早く出して貰わなきゃ、お嫁に行きそびれちゃう!」
反省を促す為、落ち着いた場所で考えられるようにと、貴族牢にしたことが災いしたのだろうか?
彼女達からは反省の欠片も生まれなかった。
まだ若かったブルガリが憐れと思い、かけた温情だったのに。
もしかしたら彼女も、親の誤った教育の犠牲者ではないかと思っていたのだ。
けれど5年経っても、ブルガリは何も変わらなかった。
時間はたくさんあったのに。
その晩の夕食は豪華なメニューだった。
まるでクリスマスのように、七面鳥やケーキも付いていた。
そして食後にワインも振る舞われた。
母子は美味しそうにそれを飲み干す。
「こんなに豪華な食事は久しぶりね。ワインまでつくなんて。でも少し甘かったわね。私は辛めが好きなのに」
「私は美味しかったわ。ケーキなんて久しぶりだもの。もっとたくさん食べたいわ。そしてドレスも新しいものが着たいの」
そんな夢を語る二人は、急に胸の熱さを感じた。
「な、何なの。く、苦しい、ぐはっ」
ランテが口を押さえると、赤いものを目にして狼狽えた。
「え、何よ、これ。まさか、血、なん、ぐぼっ」
「い、いやあ。お母様、大丈夫ですか? お母様ぁ」
喉を抑え激しく身悶えするランテは、その後に息を引き取った。
驚愕し立ち上がれないブルガリは、這いずりながら母に縋りつき泣いた。
「お母様、いやよ。一人にしないで。返事をして!!」
そんな彼女も吐血し、苦しみでもがいた。
「がはっ、く、くるしい、けれど、私も、お母様の、ところへ、行け、る…………」
翌日貴族牢を開け、ヴィルマルクが見たのは二つの血塗れの遺体。
ワインが甘かったのは、薬特有の苦味を抑える為だった。
高位貴族は毒耐性をつける為教育され、定期的に飲んだり味や匂いも学ぶが、この二人はそうではなかったようだ。
致死量以上の王族の毒だから、僅かでも体内に入れば、どちらにしろ生きてはいられなかっただろう。
苦悶表情のランテに比べ、ブルガリはランテの手を握りしめ、穏やかな表情をしていた。
「やはり呪縛があったのか…………母親を愛する呪縛が…………」
ヴィルマルクは目を強く瞑り冥福を祈る。
側近達へ遺体を丁重に扱うように指示し、彼女達をティアジルの元へ返した。
「ああっ、そんな……….…ブルガリよ、とうとう死んでしまったのか。そうか。でもせめてお墓は日当たりの良い場所にしような。うっ、本当に死んでしまったなんて………………生きていて欲しかったよ、ブルガリ…………」
ティアジルはランテのことは許せずにいた。
自分勝手に多くの命を持て遊んだことを、唾棄するほどに。
そしてまだ幼いブルガリを巻き込んだことにも、強い怒りを持っていた。
そしてそれに気づかない自分自身にも、強く深い後悔があった。
ブルガリだけは返して欲しい。
代わりに自分が牢に入るからと、嘆願したこともあった。
そもそもブルガリに経営は出来ないし、反省の意味もあるから代わることは出来ないのだが。
長いようで短い5年。
とうとう娘は反省出来ぬまま、その生涯に幕を下ろした。
表向きは既に死んでいる二人だから、ティアジルは事情を知る側近達と共に、内密に二人を荼毘に付した。
その灰を見晴らしの良い丘に埋め、花束で埋め尽くしたその場所には、翌日胸を刺して死んでいるティアジルが発見された。
「ブルガリに会いたい。もう一度娘に…………」
葬儀の時に、ティアジルが泣き濡れて呟いた言葉。
彼は天国で会えたのだろうか?
その後公爵領は国の預かりとなった。
5年間ティアジルは教育に力を入れ、公爵領の者と元伯爵家から預かった家門の人々が通う学校を次々と作り、教師として元貴族や教養のある未亡人達を雇用していった。
学校を建てる時も、元伯爵家の者を現場監督の下へ派遣し技術を学ばせた。
彼らももう貴族として生きられないと理解していたので、歯を食いしばり努力した。
何度も何度も挫けたが、みんなで励まし合った。
連座で死んでいたかもしれない命だったのだから、死んだ気で生きようと。
だからティアジルは、幼子を除きだいたいの任務は達成できたのだ。
酒・賭博・女にも手を一切出さず、娘に会いたい気持ちだけで動いていた。
亡くなったブルガリを見て、彼はどう思ったか想像はつかない。
出来るなら、ヴィルマルクも助けてやりたかった。
けれど忠臣達の意見を聞くと、逆らえなかった。
『あの子だけ生かせば、必ず火種になります』と。
実際そうなる想像はついた。
彼女は、あんな母でも愛していた。
歪んだ形かもしれないが、ランテもブルガリを深く愛していたからだ。
そのブルガリの願いなら、ティアジルは逆らえなかっただろうから。
もう彼らはいない。
火種は消されたのだ。
◇◇◇
その後もヴィルマルクはフィーナを探したが、手がかりは見つからなかった。
失踪時黒髪と薄紫の瞳をしていた彼女は、成長し赤い瞳とプラチナの髪に変わっていたからだ。
彼女が今いる場所は身分制度が緩慢で、プラチナの髪の平民は珍しくない。
黒髪も茶髪も溢れている。
だから手がかりは顔と供回りの者の特徴だけだ。
けれど年を経て、それも次第に変わっていく。
いろんな思いから、フィーナに公爵家を渡したいヴィルマルクも年を経る。
彼の子がどう考えるのかも分からない。
◇◇◇
フィーナは今、平民として生きている。
飛び抜けた裕福さもない、まわりと同じ普通の生活だ。
けれど元気な体で、途方もない自由は得られた。
可能性は無限である。
その可能性の一つに女公爵が加わっているだけなのだが、彼女がそれを選ぶかは分からない。
父の愛は最期まで得られなかった彼女たが、その分多くの愛情に包まれている。
彼女の未来は、これから紡がれるのだ。
◇◇◇
残された二つの魔力を吸う魔道具。
国王、ランテ、ブルガリの魔力を吸収して使うことも提案された。けれどヴィルマルクが反対したのだ。
「強い兵器は正気を失わせる」と言って。
これまでの国の成り立ちを憂いたのだろう。
その魔道具はあの地下深く、王族しか入れない場所に収められている。
何故ならどんなに圧を加えても、破壊できなかったからだ。
宝箱の中に、この魔道具による悲劇も書き加え封印された。
この魔道具が暴かれることがないことを願うだけだ。
12/19 8時 日間ヒューマンドラマ(完済済)まさかの3位でした。ありがとうございます(*>∀<*)♪♪♪
たくさんの方に読んで貰えたことが、さらに嬉しいです
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