出会い
R7、9/15 内容を少し変更している部分があります。
以前に読んで下さった方、すみません。
ある雨の街角に、傷ついて地に横たわる小さき者をみつけた。
私は護衛と馭者、私を監視する者に言う。
「この娘を私の家へ運びなさい。今は素性など考えている場合じゃないわ」
護衛のダドリーは小さき者を抱えたまま馬車に乗り込む。私はそのまま座るように命じた。
運転は監視者と馭者がいれば十分だ。
馬車は再び酷い雨の中を走り出す。
私は確かに公爵家の娘だけれど、愛人と本邸に住まう父から嫌われて別の場所で暮らしている。
本邸からかなり離れた森の中の家だ。
母はもうとっくに父に愛想を尽かし、離婚できないならと外国に渡っていた。
愛する護衛騎士と一緒に、語学を学ぶ為だと言って。
その彼との間に娘がいるらしいが公爵家では認知されていない。
下手に騒げば全員いなくなることだけは理解しているらしい。
だから私のまわりには護衛1人と侍女1人、馭者1人、他に父が私に付けた執事と言う名の監視者が1人いる。
そして今日。
先ほど拾った小さき者を家に入れた。
彼女の体は冷たく虫の息だ。
弱りきった痩せた体で雨に打たれていたのだ。
そうなるのも当然のこと。
護衛のダドリーは治療の心得があるから対応を任せた。
彼は妻である侍女マリアに濡れた体を拭かせ、着替えをさせた。
小さき者は意識がなく脱力したままだったが、それをものともせず丁寧に身なりを整える。
ダドリーはその間に湯を沸かし、解熱剤と湯タンポを作っていた。
薬草を潰した薬汁をガーゼで口に含ませる。
飲み込めないから、舌で吸収させるだけだ。
そして冷たい体を保温することに努めた。
あのままでは確実に命を落としていたはずの小さき者は、この日一命を取り留めたのだ。
◇◇◇
「ここは、どこ?」
彼女は木造のシンプルな部屋で目を覚ました。
そこには必要最低限の家具が置かれる宿屋のようだった。
彼女は急激にここに来る前のことを思い出す。
「わ、私は、打たれて追い出された、はず。どうなっているの?」
今、自分が着ている物は、豪華で可愛らしいデザインだった。
今まで目にしたこともないような。
混乱の中に、1人の少女が現れた。
「あらっ、目が覚めたのね。良かった」
黒いフリルのベルベットドレスを纏った、大きな赤い瞳の美しい人形のような人。
腰までの髪は艶やかでプラチナの光を放っていた。
助けて貰ったことを瞬時に判断し、立ち上がろうとするも体が倒れそうに揺らぐ。
「危ない!」
その瞬間、私は少女の腕に支えられていた。
「あ、あぁ。ごめんなさい」
「良いのよ。貴女はもう少し眠ると良いわ」
彼女は微笑んで私をベッドに戻す。
私は素直に従った。
「コン、コン。失礼します」
30代くらいのメイド服を着た女性が、食事を持って部屋に入ってきた。
「声が聞こえたので、朝食を持って来てみたの。食べられそうかしら?」
そこにはトレイに載ったパン粥が、美味しそうに湯気を立てていた。
「はい! 食べたいです。 あ、ごめんなさい」
大きな声を出して恥ずかしくなった。
だってこんな美味しそうな物、食べたことないんだもの。
少女と女性が微笑んで食事を勧めた。
「食欲があるなら、もう大丈夫ね」
「心配したのよ。本当に良かったわ」
きっと身分が高い人達に違いない。
けれど彼女達には私を見下す様子は微塵もなかった。
だから私は見られて少し恥ずかしいけど、食事を開始したのだ。
「お、美味しい。生きていて良かったぁ」
それを見て笑みを深める2人に、私は感謝しながらスプーンを口に運ぶ。
幸せにつつまれ、食べ終えると再び目が重くなる。
「もう少し休むと良いわ」
「はい、ごちそう、さま、で、し……」
どうやら私は、お礼の途中で眠ってしまいそうになっていた。
その間際に声が聞こえ、微かに目を向ける。
「私が生きている間に、少しでも役に立てて良かったわ」
「何を馬鹿なことを! フィーナ様はこれからも生きていけますわ」
「そうね、ごめんなさい。泣かないでマリア」
「ひっぐ、うぐっ、違うのです。怒ってるんじゃないんですよ。あまりにも不憫で、うぐっ、ひくっ」
「貴女がいて私は幸せよ」
少女は女性の手を取り頬を寄せた。
まるで母子のように。
それを横目に見たまま、今度は本当に意識を手放したのだった。
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