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婚約した当日にリュカと夕食をともにしてから、1か月がたった。

あの日から栄養満点の食事に王国屈指の教育者による婚約者教育、毎日のお風呂にマッサージにエステ……ケスチェ家で使用人をしていた頃が逆に信じられなく感じるほどの毎日を過ごしていた。


家事をしなくてもいいことに最初は戸惑ったが、実は婚約者教育が面白くて面白くて……毎日の楽しみになっている。

今まで勉強をしたいと思っていても、それを行う機会も時間もなかった。

シェリルやアレクが「勉強が嫌だ。つまんない」と愚痴をこぼす様子さえ羨ましかった。

ずっと憧れていた勉強……それが思う存分にできるのだ。

文字に触れ、教養に触れ、歴史に触れ……満ち足りた生活を送っていた。


そしてマリーにセバス。その他の使用人たち。

みんなが優しく、親切だった。

家から連れてきた侍女達は、私の担当を外されたのか、ここに来た瞬間から顔を見ていない。元気にやっているのだろうか?


だからすっかり忘れていたのだ。

ここに来たのはリュカ・ムーンを暗殺するためであって、婚約した当日からリュカと一度も顔を合わせていなかったことに。

何故思い出したかというと、ダンスのレッスン中にリュカ・ムーンがやってきたからだ。


ーーー


2週間。俺は待っていた。

あの女がいつ俺に会いに来るのか。

俺と一緒に夕食を食べたいといつお願いしてくるのか。

いつもであれば、女たちがデートに行きたい、パーティーに行きたい、お茶をしないか、夕食を一緒にたべよう。

うるさいほどに誘ってきた。


それは婚約者でなくとも、社交界で出会った女たちもそうだった。

こちらから誘わなくても、あちらから声をかけてくる。

そういうものだと思っていた。


それがあの女はどうだ。

2週間。一度も誘いにこない。

だからセバスに様子を聞いてみた。


「大変優秀で飲み込みも早く、意欲的であるので、当初の予定の10倍のペースで教育は進んでおります。またマリー達によって日々エステやマッサージを施され、栄養のある食事をとっているためか、日々美しさに磨きがかかっているようです」

「俺への誘いは……?」

「特にございませんよ」


にっこりと笑いながらセバスが答える。


「本日はリリー様とご一緒に夕食をとられますか?」


そう、あれ以来俺は仕事部屋で夕食をとっていた。

気になるならリリーと一緒に夕食を取ればよいのだが、なんだかプライドが邪魔して仕事部屋で食事をとりつづけていたのだ。


「リリー様は毎日美しく変わられていますよ。それを見られないのはもったいないかと……」


セバスがにっこり笑いながら追い打ちをかけてきた。


「……そんなに言うならば、本日の夕食は……」


そう言いかけたところで、門番が部屋に飛び込んできた。


「国王からの緊急招集です。隣国へ遠征してもらうことになるとのことで、2週間ほどかかるようで、その準備もするように……とのことです」


初めて仕事を疎ましく思った。

初めての感情だった。


「……わかった。今すぐ準備を」


そうして帰ってきたのが先ほど。

婚約当日から1か月が経っていた。

そして無意識にも一番にあの女に会いにいっていたのだ。

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