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俺は驚いていた。
あの淑女らしくない奇行をするぼろぼろで痩せっぽちでけばけばしく飾りつけられていた女があんなにも美しくなったことに。
本当に同じ女なのか目を疑った。そして目を奪われた。
女というのは恐ろしい。
更にケスチェ家では使用人同様に扱われていたらしい。
なんの教育も教養も持たない女を婚約者として送り込んでくるなど、無能グリスは何を考えていたんだ。
普通であれば、即婚約解消、追い出されているだろう。
だがあの女の変わりようを見て、俺は気づいたら、婚約破棄どころか、婚約者教育を申し出ていた。
気になったのだ。
あの女がどう生まれ変わるのか。
おそらくケスチェ家でひどく虐げられ、抑圧された生活を送っていたあの女が、俺の手元でどのように花開くのか……。
自分の口元に笑みが浮かんでいたことに、俺は気づいていなかった。
ーーー
「セバス、ついに坊ちゃまも運命の人に出会ったようだね。ここまで何人の婚約者候補がこの家を去っていったと思う?どんなに美しい人もどんなに優しそうな人も誰にも興味を持たなかった坊ちゃまが、リリー様には興味を抱いている。これを運命と言わずしてなんだと言うんだい。リリー様を逃したら、坊ちゃまは一生独り身ですよ。私は誰が何と言おうとリリー様を推すよ!それにリリー様の変わりよう、どうだい!ちょっと磨いただけであの美しさ。これは化けるよ。腕がなるってもんだよ」
このムーン公爵家の侍女長であるマリーが洪水のように話しかけてくる。
私、セバスはムーン公爵家を代々執事として支える家系出身だ。
マリーはリリー様の美しさについてまだべらべらと語り続けている。
確かにリリー様は今までの婚約者様たちとなにもかもが違っていた。
そこに旦那様は興味を惹かれているだけだと思っていたが、自ら婚約者教育を言い出したところを見ると、興味を惹かれているだけにはとどまらないように思う。
今までの婚約者たちに対する旦那様の態度は本当にひどかった。
話しかけられても無視、無視、無視。もちろんデートやパーティー、お茶さえもしたことはない。何よりも気色の悪いものを見る目つきで女性を見る。あの目を向けられてショックを受けない女性がいるなら、私も見てみたいと思う。
そんな旦那様がリリー様に婚約者教育を施すように命令されたのだ。
マリーの言う通り、おそらくこれは旦那様の幸せにつながる最重要ミッション。
「任せてください、旦那様。リリー様が最高のレディになれるよう、力を尽くしてみせましょう」
こうしてリュカの幸せのためと、マリーとセバスによるリリー様スパルタ女磨き作戦が始まるのであった。