27
初夏の心地の良い風がテラスを通り抜ける。
リリーの白い肌が夜の闇に美しく発光する。
赤いドレスがほのかなランプの明かりに照らされる。
まるで月の妖精のようだ。
ある童話でこんな話がある。
月からやってきた美しい女が、多くの有能な男から求婚された。
女は男たちに試練を与えた。
無理難題の試練に有能な男たちは脱落していった。
1人の男ーーその国の王子様が残るも、最後の試練の前にタイムリミットがやってきた。
月から月の国の男がやってきて、女は連れていかれてしまった。
その女は月の妖精のお姫様だったのだとか……。
「リリーは月の妖精のようだな」
そう言いながら、グラスに葡萄酒をつぎ、リリーに渡す。
リリーはそれを受け取りながら答える。
「……そういうなら、リュカ様は王子様みたいですわ」
「それだと月の妖精ーーリリーと結ばれないじゃないか」
クスクス笑いながら、俺は葡萄酒を飲む。
「月の妖精は王子様と結ばれたくなかったんじゃないでしょうか?」
「……何故だ?」
「……王子様が好きだったから」
意味が分からない。
好きだったら、月の国の男が来ても月に帰らず、残ればよかったのだ。
どんなことをしたとしても。
「もし好きだったとしたら何故月の妖精は月の国の男と一緒に月に帰ったんだ?」
「お互いに好きでも月の妖精と王子様はあまりに違っていて……お互い幸せになれないと思ったのでしょう。王子様に幸せになってほしくて、帰ったのだと思います」
「全然わからない!お互い好きなら、その気持ちだけで十分だろ。それだけで幸せだろ」
「……いいえ、いいえ。月の妖精はとらわれているから……月の国に……だから……きっと……」
そういうと何かをぎゅっと握る仕草をした。
不思議に思い、俺は彼女に問いかける。
「……リリー、どうした?」
「いいえ……なんでも……ワイン飲みますか?つぎますよ?」
俺のグラスを受け取り、グラスに葡萄酒を注いでくれた。
「私……ここでの生活が本当に幸せでした」
「それは良かった、これからも永遠に君を幸せにしてみせる」
「……我儘を言ってもいいですか?」
「なんでも、どうぞ」
「……こんなこと言うと、はしたないかもしれないのですが……キ……キスしてもらえませんか?」
俺は一瞬目を見開いた後、すぐにソファから立ち上がり、リリーを抱き寄せる。
「……あ」
彼女が何かを言う前に俺は彼女の艶やかで赤い果実のような唇にキスを落とした。




