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「ねぇ、セバス。リリー様、やっぱり変だと思わない?」
「やはりマリーも気づいていましたか」
「ええ、リリー様、私たちに嘘をついていると思うの!リリー様の部屋にケスチェ家の侍女達行っていたわよね!それで、おそらくリリー様の髪を……」
マリーが悔しそうに顔をゆがめる。
「……ええ、そうでしょうね。微かにですが御髪が乱れていましたから……」
他の使用人だったら気づかなかったかもしれないが、私たちは一応この家の使用人のトップ。
主や家のことであれば、ほんのわずかな違いでもすぐにわかってしまう。
「なんで隠されるのかしら……やはりご実家だからかしら?」
「おそらくそうでしょうね。ご実家でひどい扱いを受けていたようですし、ご実家に逆らえない状況なのでしょう」
「んもう!リリー様はもうムーン公爵家の一員なのだから、恐れることなどないのに!!それに私たちに相談してくれれば、リリー様の味方になって戦う覚悟だってできているのに!!」
地団太を踏みしめるマリーをたしなめる。
「私たちはいち使用人ですから、リリー様が助けを求めてくださらないと陰でしか動けませんからね」
「影……と言うことはケスチェの侍女捕まえたの!?」
「……実はそれが……亡くなっていました」
「……え!?どこで?」
「公爵家のそばの森です。どのように公爵家を出たのかは現在調査中で……もしかしたら、公爵家内に内通者がいるかもしれません」
「そんなわけ……ないわけないのよね。今回、こんなことが起きたんだものね」
マリーが大きくため息をつく。
「……ケスチェ家の侍女の使えないことといったらなかったわよ。でも死んでいたなんて……信じられないわ」
「彼女からリリー様に何を話したのか聞き出すのは難しくなってしまいました」
「坊ちゃんはなんて言っているの?」
「内通者を探せとリリー様の心配ですね。変わったところはないかと気にしていらっしゃいました」
マリーは考え込む仕草をする。
「最近、何かを握っているような仕草をされるのよね。その時はかなり思いつめた様子で……それ以外は明るく振舞っていらっしゃるわ。無理をしてる感じはするけどね。あとは……この前坊ちゃまがいつ帰ってくるのか気にしていらっしゃったわ。早く会いたいんでしょう!だってあの夜会から帰って以来もう3週間ですよ!?いつまで坊ちゃまは王城に泊まり込んでいらっしゃるの!?リリー様に会いたくないんですの!?仕事人間が少しは変わったと思っていたのに……」
マリーはぷりぷり怒り出したので、私は苦笑しながら答える。
「それはリリー様のためなんですよ。しかし思いつめたような表情……気になりますね。明日には旦那様がお戻りになられるので、ご一緒に夕食を取れるように準備しましょう。久しぶりのお2人での食事ですので、豪勢にいきましょう」
「まあ!ようやく帰ってくるのね!それでは今晩はリリー様をいつも以上にぴっかぴっかに磨き上げますわ!明日、久々の再会を果たせば、リリー様もきっと元気になられるわ!早速リリー様に報告に行ってきます」
あまりに興奮したのかムーン公爵家の侍女頭らしからぬ様子でマリーが部屋を飛び出していった。
「何かを握っているような仕草……一応気を付けておく必要がありますかね……」
私は、自分の悪い想像が当たらないことを祈ることにした。




