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「ご無沙汰ですわね。ムーン公爵様」
シェリルは最上級のほほ笑みをリュカに向けた。
しかし、リュカは何も聞こえていないようにまっすぐ前を見たまま一言。
「誰だ」
シェリルのプライドは大きく傷つけられたが、まだめげない。
「そうですわよね。一度しかご挨拶しておりませんものね。私、ケスチェ公爵家の娘シェリルと申します」
丁寧に挨拶する。
するとリュカがバッとシェリルの方を向いた。
そしてまじまじとシェリルの方を見つめる。
「これは失礼しました。リリーの妹のシェリル嬢。ご無沙汰しております。本日はいらっしゃらないと聞いていたものですから……」
すっと目を細めたリュカの表情にシェリルは気づかない。
リュカが丁寧に返事を返してくれたことにシェリルは満足感を覚えた。
ああ、やはり私は特別なのね。
他の女にこんなあいさつをしているムーン公爵は見たことがないもの。
だからシェリルは得意になっていたのだ。
「いいえ、気にしないでくださいませ。本日、急に参加することにしましたのよ。それより、我が家からあのような者をムーン公爵様の婚約者としてお送りしたこと、大変申し訳なく思っておりますわ。そうだわ!私と交換するのはいかがでしょう?実は義姉は教養も何もなく……ムーン公爵様の婚約者にふさわしくないと思いますの。お父様にお願いして今すぐにでも……」
そう言いながら、リュカの腕にシェリルが手を伸ばしたところを、パンとリュカに払われる。
手に持っていたワインが少しこぼれ、今日のために新調したドレスにシミがついた。
「失礼。薄汚い手が触れるかと思ってびっくりしてしまいまして……。ああ、婚約者を交換でしたっけ?リリーに勝るところが何一つ私には見当たらないのですが……そのような不利な交渉お受けできかねますね」
リュカは冷たい表情で淡々と告げる。
シェリルはカッと顔を赤くした。
「そうだ。今ケスチェ家は資金繰りが厳しいようですね。ドレスを汚してしまったお詫びにドレス代と今夜の送迎代をお支払いしますよ。ドレスにシミがついていてはここにいるのも恥ずかしいでしょうからお帰りになっては?」
リュカはにっこり笑いながら、しかし断ることのできない圧を持って出口に向かって手を伸ばす。
「どうぞ……」
シェリルはわなわなと震えて、下を向いた後、急に顔を上げた。
その顔は何故か笑っており。
「申し訳ございません。帰る前に義姉に挨拶したくて……。ほら丁度ダンスも終わったようですよ」
そう言ってダンスフロアを指さしにっこり笑ったのだ。




