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「リュカ!君の女神がやってきていると聞いたのだが、私にも紹介してくれないかな」

「王太子殿下!」

「王太子殿下だなんて!私と君は親友だろ!いつもの通りルイって呼んでくれよ。って、皆が噂するのもわかるくらいに美しいな、君の女神は」


漆黒の髪で深く青い目をしたリュカが月の化身だとしたら、王太子殿下は太陽の化身のような美しさをまとっていた。


美しく輝く金色の髪と同じく金色に輝く瞳。生まれながらに王だとわかる印をもって生まれたことがわかるような完璧な容姿。

若い女性が色めき立つのがよくわかる。


「リュカ・ムーン公爵の婚約者。ケスチェ家の長女リリーと申します」


王太子殿下に挨拶する。


「リリー嬢、私はリュカの幼い頃からの親友で、この国の王太子ルイ・アルブレラだ。お近づきの印に後ほどダンスでもどうかな?」

「おい」

「なんだよ!いいだろ!君の婚約者と仲良くなりたいんだよ。君が躍った後に1曲だけ。いいだろ?」

「……リリー、どうだ?」


まさか話を振られるとは思っていなかった。

正直不得意なダンスはなるべく踊りたくない。

しかし初めての社交界で流石にこの国の王太子の誘いを断れる勇気も何も持っていなかったので、私にできる答えはこれのみ。


「はい、どうぞよろしくお願いいたします」


その答えを聞いて王太子ルイはにんまりと笑う。


「それでは後ほど、リュカとのダンスが終わった後に誘いに行くね」


そうして嵐のようにルイは去っていった。


「クッソ。あいつが誘いに来る前に帰るか……」


思わず笑みがこぼれる。


「クスクス。王太子殿下と本当に仲が良いのですね」

「今のやり取りを見て仲が良く見えたか!?」

「はい。リュカ様が素の表情をされているように感じました」

「……~~~~」


またクスクス笑うと、グイッと腰を引き寄せられ、至近距離にリュカの美しい彫刻のような顔面がせまる。


「……もう笑うな」


びっくりして笑いが止まる。

そして私は真っ赤になってしまった。


「……はい」


そういうだけで精一杯だった。

リュカが私から体を離し、手を指し伸ばす。


「私とダンスを踊ってくれませんか?」


ドキドキする胸を落ち着かせようとしながら、答える。


「……はい」


ダンスフロアへ向かい、ダンスを踊るため、体を密着させる。

ダンスの講師とは違うリュカのがっしりとした男らしい体を感じてしまい、ドキドキが収まるどころか膨れ上がっていく。

ただでさえ苦手なダンスでこんな状況に陥ってしまい、パニック寸前だ。

そんな時、耳元で声をかけられる。


「さて、足を踏まれないように気を付けるかな」


バッとリュカの方を向くと、リュカはニヤニヤと意地悪そうな表情でこちらを見ていた。

私がダンスを苦手としていることを知っていて、からかっているのだ。


「なっ……!これでも一生懸命練習して……」

「知っているよ」


そう優しい声がしたかと思ったら、ダンスが始まった。

気づけば体の力が抜けていて、スムーズに動きだすことができていた。


リュカの方を見ると優しい顔でこちらを見ている。

ああ、私の緊張を取ろうとしてくれていたのだとわかった。


そしてリュカはダンスがとんでもなく上手だった。

リュカに体を任せていれば、ダンスが何倍も上手くなったと錯覚してしまうほど優雅に踊ることができた。


リュカがステップを踏むたびに、あまりの美しさに観客からはため息が漏れる。

そうして初めて楽しいと思えたダンスが終わった。

観衆から大きな拍手が送られた。


ダンスフロアから戻ったところで、私は今の感激をリュカに伝えた。


「リュカ様!とってもダンスが上手ですのね。私、初めてダンスが楽しいって思いました。リュカ様とずっと踊っていたいような心地で……本当にありがとうございます」


そういうとリュカが嬉しそうに答える。


「皆、君の美しさに見惚れていたよ。ダンスレッスンの成果だな」

「ええ、リュカ様の足を踏まないように頑張りました」


そう返すとリュカが目をまるくする。

そして2人で見つめあい。同時にぷっと吹き出し。クスクス笑いあう。


「なかなか言うじゃないか」

「リュカ様ほどではありません」

「そうか、それでは飲み物を飲んで休憩したら、また踊らないか?」

「はい、どうぞよろしくお願いいたします」


この時、私は忘れていたのだ。

自分の罪を。役割を。本当の立場を。

こんなに幸せに笑っていて良い人間ではないということを……。

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