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うちの付与術師が追放されてくれない ~始まらなかった1つの物語~

作者: 杉田モン太


「アキラ、お前にはこのパーティを辞めてもらう。今日でクビだ!」


 俺はリュウ。このパーティ、エヴォルブハーツのリーダーを務めている重戦士だ。エヴォルブハーツは結成2年を待たずしてAランクパーティに上り詰めた。いや、こいつさえいなければSランクパーティになっていたはずだったんだ。


 俺の積年の悩みである、この付与術師の存在。俺の幼馴染だというだけで、パーティに居座ってきやがったが、それも今日までだ。とうとう追放を言い渡してやった。


「な、なぜ?なぜ僕がクビになるの?」


何故だって?

そんなことも自分でわからないのか!


「お前がっ!役立たずだからだろうがあぁぁ!!!」


 木造の天井から吊り下げられたランタンが、ぼんやりと温かい光を投げかけ、店内の隅々に柔らかい影を作り出している。古びた木の床は、多くの冒険者の歴史を物語るようにすり減り、それとは別にこぼれた酒や喰い物が散見された。

 

 深夜の居酒屋の喧騒を切り裂くように、俺の怒鳴り声が響く。周囲の客の視線が集まった。


「まず、お前のバフ。本当に効果があるのか分かったもんじゃない。それをお前は言葉巧みに、パーティの功績を自分の手柄だと主張する。お前のバフが実力不足だってのは、お前自身が認めている正真正銘の事実だってのになぁ!」


 酒が少し回っているのもある。俺は自分自身の声にますます興奮が抑えられなくなっていた。


「言わせてもらうけどさ、僕のバフは今や役立たずじゃない。少しはパーティの役に立てていると自負してるよ。」


「ハンっ。少しってどのくらいだよ?この詐欺師が!」


「だけど、僕のバフで多くのモンスターを倒してきたのも事実でしょ?」


「事実とは何だろうな。勝手なことばかり言いやがって。サドリッジの村がモンスターに襲われ滅びる寸前だった時、俺は村人の未来のために剣を振るった。倒しても倒しても湧いてくるモンスター群を前に俺が死力を尽くしていたとき、お前はそんな俺をしり目に女どもと談笑していなかったか?」


「ん。そうだったね。それはごめん。」


「ごめんだ??そんなんで済む問題じゃないだろ!俺はオーガを単独討伐したぞ。あれはお前のバフのおかげか?」


「いや、あれはリュウの実力だ。」


「当たり前だ!俺たちはお前のバフなんざ必要としていない!お前はバフをかけたと言って、後は見てるだけ。身体をはり続けてきたのはいつも俺たちだ!しかもその肝心のバフも頗る怪しいときた。こうなれば、なぜお前をパーティに置いておかなければならないのか、逆に聞きたいくらいだ!」


(確かにそんな付与術師、いらねえな)

(あぁ、酷いやろうだ。)

(俺も前衛職だから、あの戦士の気持ちはわかるぜ!)


 不意に観客の中から俺への同調の声が飛んだ。これまで我慢に我慢を重ねてきた俺は報われた気がして不覚にも目頭が熱くなる。窓の外はもう、灯りがついている店も疎らになっていることだろう。そんな街の静けさの中を時折風が通り抜けては、木々を揺らしているに違いない。


「なあ、リュウ。僕たちは幼馴染で、冒険者になってからも一緒にやってきた。そんな僕をクビだなんて、少し冷静になってくれよ。」


「またそうやって、俺の慈悲にすがるのか?俺が何度お前を許してきた。もうお前は終わったんだよ!」


「そんなことない。僕たちの冒険はまだ始まったばかりだ!」


…へ?


 まだ、追放されてくれないの?


 なんか怖くなってきた。普通、これだけ言われたらどんな愚鈍でもさすがに気づくぞ。お前は俺たちのお荷物。足を引っ張っているんだよ!


「なぁ、アキラよ。なんだ、【異次元バッグ】って?童話に出てきて子どもたちが大好きなあれの真似か?自分はそんな夢のようなものを持ってる特別な存在だからなに?荷物運びなら任せてくれ?…それだけの大風呂敷を広げて、荷物運びとは笑わせやがる。うちのパーティにはすでに優秀な荷物持ちがいるわけだが、これはそいつへの嫌がらせか?」


(【異次元バッグ】??ぎゃははははっ!)

(荷物持ちじゃなくてお笑い係やれ!)

(だいたいお前は荷物持ちじゃなくて、お荷物なんだろ?)


「それにお前、戦いの前の【おまじない】ってなんだよ?【おまじない】って?そんなスピリチュアルで貢献アピールか?」


(はぁっっ!もう駄目だ。腹が痛い!)

(【おまじない】!不思議ちゃんきた!あっははははははは!)

(俺にはそんな幼馴染がいてなくてよかったぜ。)


 もう観客は完全に俺の味方だ!


「おいアキラ!もう一度だけ言うぜ。気の毒だが、お前は今日を持って…


 追放だ!!!!!」


 決まった。




「嫌だよ、リュウ。」



 こいつ…


 一体どう言ったら、わかってくれるんだ?酒の席での冗談だと思ってやがるのか?


「だいたい、僕たちのパーティは明日から旅立つんだよ?そんな急にメンバーを減らして、旅はどうなっちゃうんだよ。」


「明日から旅立つから言ってんだろ!!危険な旅だから、足手まといは切っておきたいんだよ!だいたいうちのパーティは5人パーティだ!お前がいないほうが、バランスが取れるってことはお前もわかるだろ?」


(ぷっ!5人パーティって…。)

(お遊びじゃねえんだぞ!)

(それは1人切らなきゃだめだ。)


「もう1つ、はっきりさせておくべきことがある。お前、今懐に入ってる金、ここに全部出してみろよ。」


「なんだよ、急に。」


「なんだじゃねえよ!お前、俺たちの金を横領してねえか?最近、お前ばっかり羽振りがいい気がするんだけどよ。」


「ちょっと、待って!それは誤解だ!」


(おい。盗みまでしてんのか?)

(それは笑えねぇ。とんだ屑野郎だな!)

(早く!潔白なら早く有り金見せてみろよ!)


「わかった。そのかわり、ちゃんと最後まで話を聞いてほしい。」


「そんな御託はいいんだ。今日だって、夕ご飯を奢って、この酒場の払いも任せてくれって、そりゃ不自然だろ?報酬はみんな同じはずなのに、いつもお前が金を出して、女子メンバーにモテようとしやがって。」


 さあ、そうだ。有り金を出すんだよ…


 ジャラジャラジャラってなもんだ。


 ジャラジャラジャラジャラ…


 え?ええ?ちょっと待てよ…どれだけ出てくるんだ?


 しかもそれ、白金貨じゃねぇ?




「白金貨が350枚くらいかな…。」




はあぁぁぁぁぁぁあ???




「なんだよそれ!お前、それ、一生遊んで暮らせるじゃねえか!」


(ほ、ホントに着服してやがった…。)

(屑だな屑!)

(これは追放じゃすまねえぞ!)


「このお金は、何も疚しいものじゃ…」


「うるせえ!じゃあ何だっていうんだ!俺と一緒に山奥の村で育って、一緒に冒険して、俺はお前の実家だって知ってる。ふつーの農家だ!お前がそんな金、持ってること自体不自然なんだよ!」


「思い当たったぞ。お前が伯爵に傲慢にも悪態をつき続けたせいで、俺たちはSランクになれなかった。だけど、お前はこれだけの金を隠して、一人だけ将来安泰だったんだな!」


(よく我慢してたよなぁ。)

(貴族に悪態をついてSランクを棒に振った??)

(あり得ねぇ…。)


「これはな、アキラ。俺だけの独断じゃねぇ。他のメンバーにも今日の話は伝えてあったが、誰もお前を庇わないだろう。誰もこの決定には口を出さないと言っている!」


 観客たちは、彼らのパーティメンバーである3人の女性冒険者に目をやる。銀の髪を1つに束ねた大人っぽい女性は、凛としている。青い瞳が美しい少女の金髪は肩のあたりで軽く波打つ。そして、一見幼く見える黒髪の少女は、そのどんぐりのように大きな目で事の行方を見守っていた。


「確かに。この話し合いに関して、私たちは黙っている約束をした。」


 銀の髪の女がポツリと言う。


「ほらな。これが答えだ!【寡黙は金貨の説得力】ってな!みんなお前には早く出て行ってほしいんだ!」


(これで決まりだな。)

(おい、詐欺師の坊主。いつまでもごねてんじゃねえぞ!)

(男は去り際だ!)


「なるほど。リュウは僕のことをそういうふうに思っていたんだね?」


「な、なんだよ!事実じゃねえか!」


「確かに事実もある。誤解だって、それを生んだ僕にも責任があるね。」


「そうだ!お前がキッパリと責任を取る時が、今だ!!!」




「んー!わかった。誤解を生んだことは…ホントにごめんなさい!」




「そんなんで、すむわけないだろうがぁぁ!」


 おい、お前らからもなんか言ってやれ!

 お前ら、なんで何も喋らないんだ!

 遠慮しなくていいんだぜ。

 本音をぶちまけて、このくそ野郎に唾を吐きかけてもよ。


 アキラが再び口をひらく。




「じゃあ…、すみませんでした。

 それで、さっきの返事だけどね、僕はこのパーティを…辞めない!」


「は?いやいや、選択権がお前にあるわけ…」




「そうか。辞めないか!安心したぞアキラ。」


「話は終わったね!ホント、よかったぁ!」


「んふぁ。これで明日からもボクたち5人で仲良く冒険だね。」


「うん。だって、僕が辞めたら困るのはリュウだよ。

 さあ、明日は旅立ちだ。

 みんな、そろそろ宿に帰って早く寝よう!」


「はあぁぁぁ???

 何言ってんだ、アキラ??

 お前ら、ホントにそれでいいのかよ!!?」



「リュウったらまだ言ってる。しつこい男はモテないよ。」


「明日は早いぞ。酒はそのくらいでいいだろう、リュウ。」


「んふぁ!明日が楽しみだなぁ。さあ帰ろう、リュウ!」





「ちょ、お前ら!ちょっと待てよーーーー!!!」




(なんだったんだ、いったい?)

(これだけやらかして追放はなしかよ?がっかりだぜ。)

(けっ、馬鹿馬鹿しい。お前ら早く帰ってさっさと寝やがれ)


ぶつぶつと不満を洩らしながら、観客たちはそれぞれのテーブルに戻った。次の話題を肴にエールの1杯も煽れば、もう今の出来事は忘れている。


この街、リバークロフトの夜が更けていく。


澄み切った夜空を大きな月が照らしていた。


お読みいただきありがとうございます。


始めて書いた短編です。


よかったら、本音の★評価よろしくおねがいします。

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