第8話:封印
「アンタ達、何やってんすか。少し話聞いてましたけど、大の大人が複数人で、何の罪もない子供に寄って集って……」
男達は、亮太を完全に無視して話を続けている。
「……おいアンタら、無視は酷くないか? 何とか言ったらどうなんだよ」
男の方を軽く押してそう言った。亮太は、少し自信過剰になっていた。
「……うぜ。火炎魔法、ファイア───」
「こんな公共の場で、何をしようとしてるんだ?」
すると、亮太達の前に、光り輝く金色の髪色をした、好青年が立っていた。
「げッ、Sランク……」
「ま、マルスト様が、俺達に……何の用だよ……」
「いや? たまたま通りかかったら、何やら揉め事が起きてたからね。なに、このまま大人しく立ち去るなら、何もしないさ」
マルストとやらが爽やかな声で忠告をすると、男達はそそくさとその場から走り去って行った。
「……大丈夫だったかな? お嬢さん?」
猫耳の少女は、無言で亮太の後ろに隠れた。
「おや、怖がられてしまったみたいだね。……では、僕は失礼するよ」
そう言うと、謎の好青年はすれ違い様にニコッと会釈をし、そのまま歩いて行った。
「───怖かったにゃ〜!」
見ず知らずの少女は、亮太に抱きつくと、涙と鼻水で亮太の服をグチョグチョに濡らした。
「お、おい……」
何してんだよ汚いな……そう思いはしたものの、その気持ちをぐっと堪えた。そんな些細なことよりも、目の前にステータスウィンドウが現れた事の方に注目がいった。
『メリスが仲間に加わりました。現時点から、ユニークスキルを除く全ての所持スキルが封印されます』
「あ……嘘……」
亮太は、その場でへたりこんでしまった。
その後、亮太はある場所へ向かいながら、歩きながら少女、メリスの話を聞いた。この世界では、どうやら黒髪の獣人族がとても珍しく、危険な目に巻き込まれないようにする為、深々く帽子を被っていたが、風で飛ばされてしまったところを運悪くあの男達に見られてしまったそうな。
「でさ、他にも聞きたいことがあるんだけど……」
「……さっきの人達の事かにゃ? あの人達は、A級冒険者にゃ。胸のバッジを見ればすぐ分かる事にゃ。……あのまま、連れ去られちゃうんだろうって」
「そんな、当たり前かのように……」
「普通は、誰も助けてくれないにゃ。級を持たない人や、A級以下の人が止めに入ったところで、殺されるのがいいところにゃ。皆自分が大事だにゃ。当たり前にゃ」
亮太は、暗い話に徐々に口数が減っていった。
「……じゃあ、さっきの人は……」
「あの人は確か……Sランク冒険者『マルスト・ユナイテッド』。Sランクは、Aランクの10分の1の数しか居ないにゃ。……助けてはくれたけど、あの人の良い噂はあまり聞かないにゃ。だから、助けた代わりに、何か代償を要求されるんじゃにゃいかって、凄く怖かったのにゃ」
「……普通に喋って欲しい……」
「何か言ったかにゃ」
「いえ、何も……」
「……だから、冒険者バッジすらないのに、私を助けてくれた貴方が、神様に見えたにゃ。本当に……ありがとう……にゃっ」
メリスは、また泣き出してしまった。
亮太は、何も言わず、メリスの頭を撫で続けた。メリスが泣き止むまで、ずっと。
「お礼に、ご飯でも奢らせて欲しいにゃ」
暫くし、泣き止んだメリスはそんなことを提案してきた。
「ほんとか? 実は朝から何も食べてなくて……」
「任せるにゃ! 好きなだけ食べるといいにゃ!」
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。……ひとまず、先にご飯屋さんに寄ろうか」
「こんなに沢山頼んで、お金は足りるの?」
「当たり前にゃ! さ、遠慮せずにたんと食べるにゃ!」
亮太は、この世界の人の情の深さに感銘を受けつつ、食事にありついた。
食事を堪能した二人は、会計をするべく、レジのような場所に向かった。
「はい、二人で銀貨二枚ね!」
「ちゃんと足りるよな?」
そう言ってメリスを見ると、メリスの額には、無数の冷や汗が浮かび上がった。
「足りる……よな?」
「に……」
『に?』
「逃げるにゃ!」
メリスは、亮太の手を引いて走った。
「お、おい! 食い逃げだ!!」
亮太も亮太で、こんな非日常が、楽しくて仕方がなかった。