彼女の思い出(4)
「わかった。じゃあ適当に空いている席に座ってくれ」
「よいしょっと…………」
たぶん聞かれたくない話をするんだろうから、目立ちにくい端っこの席を選んだ。と言っても、オーナーには筒抜けだろうけど。
ここのお店のオーナーはお客さんのしゃべっていることに関して他言することは絶対にない。そういう信頼は厚い。どんな話だって、胸のうちに秘めていてくれるから助かる。
「注文はどうする?」
「もうちょっと待ってもらっててもいいですか? 12時ごろに来るはずなので、来たらランチメニューを頼みます」
「わかった。じゃあ待っておくよ」
まあ、あちらから約束しておいて予定をすっぽかすことはないだろうから心配はしていないのだけれども。
でも…………なんかこう、いつ来るのかとムズムズしてくる。これは女性に慣れていないという弊害か。時計を見たり、スマホを見たり。どうにも落ち着かない。
「待ち合わせているのは女の子かい?」
その態度が見抜かれていたのか、オーナーさんに突っ込まれた。今日はオレ以外にお客さんはいないし、必然的に目立ってしまうのだろう。
「ええ、そうですね。最近できた知り合いでして」
「いつもの麻空さんじゃないのか。今頃麻空さんは妬いちゃってるかもよ?」
「あはは、そんなことないですよ、アイツはオレよりよっぽどイイ男の友人がたくさんいますから」
「高嶺くんがどんな選択をしても自由だが、誰かを悲しませるようなことはするんじゃないぞ」
「はい、わかっています」
そのとき。ガチャンガチャンと2回目の重めのベルが響いた。
「おお、水卜さんじゃないか」
「お久しぶりでーす。最近ご無沙汰でしたね、マスター」
ここのマスターは顔が広い。オレも、結月も、ミトちゃんさんも、通ったことのある人はだいたい把握しているようだ。
「えっと…………あーいたいた。稜希くん、待たせた?」
「いいや、ぜんぜん」
大嘘である。
時間は12時ぴったり。約束の時間になんら遅れていないし、文句のつけどころがない。しかし…………。
「ふふ。その顔だとだいぶソワソワしていたようだね。目が口ほどにものを言っているよ」
「そ、そんなことはないぞ」
「ま、そういうことにしておいてあげる。で、ここ座っていいよね」
オレと向かい合わせるように椅子に座った。マスターは素知らぬ顔でそっぽを向いている。
「ふう、暑かった。ごめんね、呼び出して」
「オレは別に構わないけど、結月たちに変な顔をされたな」




