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彼女の違和感(4)

 まずひとつ。今までと同じ疑問だ。どうして記憶喪失なのに、学校の試験は難なく受けることができるのか。しかも、わりかし余裕で。

 ふたつ。オレが《鼈宮谷さんは着せ替えできるドールじゃないんだぞ》と言ったとき、鼈宮谷さんの表情が動いた。ドールという単語に、確執があるのだろうか。

 みっつ。結月が《澪ちゃんって、本当に記憶喪失なの?》と言ったとき。鼈宮谷さんは顔をそらした。

 普段なら感情の見えない鼈宮谷さんが動揺するような案件…………それはやはり、オレの見立ては間違っていなかったということなのだろうか。

「じゃあ…………」

 仮に、鼈宮谷さんの記憶喪失が嘘だったと仮定しよう。記憶喪失を装うメリットとはなんなんだ? 誰かから逃げるためなのか?

 世間ではDV…………家庭内暴力から逃げるために新天地に移り住む人間がいるのは知っている。鼈宮谷さんはそういう人間なのだろうか。

 いいや、それならば空から降ってきたことに対する説明ができない。鼈宮谷さん本人が疑問に思っていたように、彼女は宇宙人なのかもしれない。

「…………」

 じゃあ、仮に宇宙人だとしよう。宇宙のどこかから逃げてきた人間…………? いいやそんなバカな。宇宙人の存在すら証明できていないのに、そんなことがあるはずがない。

「そもそも…………」

 そもそも、彼女がオレたちと敵対する可能性がないと断言できないじゃないか。鼈宮谷さんにその気が無いように見えても、考えていることはまるっきり違うのかもしれない。

 鼈宮谷さんに対する漠然とした違和感。記憶喪失の人間とは思えない、ときおり見せる言動や仕草。

 どんなにポジティブに捉えても、彼女を疑うべき理由がたくさんある。本当ならばこんなことはしたくない。友人を、疑いたくない。

 でも、これは面倒事に巻き込まれないための自衛の手段なのだ。鼈宮谷さんが何者なのかという客観的な証拠を集めることができれば、オレも心から安心して彼女と接することができる。

 でも、どうやって? 自分の名前しか情報のない女の子を、どうやって突き止める? 鼈宮谷澪という名前は一番最初に検索したが出てこなかった。

 彼女は敵なのか、味方なのか、あるいは助けを求めてどこかからやってきたのか。可能性は三択だ。

 ところで。結月は《澪ちゃんって、本当に記憶喪失なの?》と言い放った。直後に忘れているのを見るに、大した疑問ではなかったのかもしれないが。

 結月もまた、鼈宮谷さんの”違和感”に、うすうす気がついているのではないだろうか。もし彼女が敵であったのならば、結月は、なにを思うだろう。

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