彼女の違和感(3)
「ねえ、澪ちゃん」
「…………なんでしょうか?」
「澪ちゃんって、本当に記憶喪失なの?」
「……………………」
鼈宮谷さんが無言で顔をそらした。
「えっ!? 夕立!? あーもう!」
その瞬間。叩きつけるかのような雨が降り注いできた。まるでシャワーだ。
「うわーどうしよう! この辺は個人宅ばかりで雨宿りできるところもないし!」
「走るか?」
「走っても走らなくてもずぶ濡れには変わりないよ! …………あ。あたし折りたたみ傘持ってるんだった」
「それに早く気付け!」
30秒後。すべてを諦めたオレは素直にゲリラ豪雨に晒されることにした。
「本当にいいの? 風邪ひきそうだよ?」
「お前や鼈宮谷さんに風邪を引かせるわけにはいかねえだろ。それにオレはパソコンの入ったリュックさえ濡れなきゃなんだっていい」
さすがにパソコンの入ったリュックは結月に押し付けることにした。ふたりは傘を差しているとは言え、濡れないのはせいぜい上半身と荷物くらいだ。下半身は見るまでもない。
「まあ、どうせ帰ったらすぐ着替えるし。パソコンがおじゃんにならなければ大丈夫だよ。洗濯物が増えるのが面倒だけどね」
「…………結月さん。さっきはなにを聞こうとしたんですか?」
「えー。あー。なんだっけ。この夕立のてんやわんやで忘れちゃった。まあ思い出したらまた聞くよ、ごめんね」
「……………………」
そのとき。鼈宮谷さんの視線がわずかに泳いだのをオレは見逃さなかった。
「ただいま…………」
ふたりは下半身がずぶ濡れ、オレは頭から足の先までずぶ濡れ。まあ、こういうときこそ女性が優先だよな。女の子がずぶ濡れとかかわいそうだし。
「お前は正式にこの家で暮らしていいとは認めていないんだけどな」
「いいの。ここはあたしの第二の家。だからただいまなの」
「やれやれ…………」
「着替えなきゃ…………澪ちゃん、部屋着でいい? 今日、外に出る用事はほかにある?」
「…………ありません」
「そっか。じゃあパジャマで用意するね」
「お前ら真っ先に風呂に入ってこい、夏だとは言えこのままじゃ風邪を引くぞ」
「うん。わかってる。じゃ、あたしは澪ちゃんとお風呂に入ってくるから。じゃね」
本来であれば全身ずぶ濡れのオレのほうが風邪を引きそうなのだが、レディーファーストだ。
「ふう…………」
バスタオルで頭をガシガシと拭き、ソファーに敷いてから座り込む。そのまま座ったらソファーが濡れてしまう。
学校からの帰り道。鼈宮谷さんに違和感を覚える点がいくつかあった。




