日常の向こうに(8)
「あたしね。稜希と一緒にいるとすっごい楽しいんだ。稜希は陰キャだけど、根暗のつまらない人間ではないから。あたしのペースにもついてきてくれるし」
「…………」
「だから、今日もすっごい楽しかった。稜希が目の前の絶望に打ちひしがれていたときの表情はたまらなかったよ」
「それについてはお前をひっぱたきたいが」
「まあまあ。あたしは交友関係は広いけど、本当に友達と呼べる人はそんなにいない。だからこういういたずらをできるのは稜希だけなんだよ」
「歩くコミュ力おばけのお前が友達いない? 笑わせないでくれ」
「本当だよ。ひろーくあさーく。接する人を限定しない代わりに、そんなに深い付き合いはしない。そのほうが、自分の身を守れるから。
稜希の場合はせまーくふかーく。不特定多数とのコミュニケーションを避けて、信頼できる人との関係を深める。ある意味合ってるんだよ、このやり方は」
「まあ、言われてみれば…………そうなのかもしれないな」
「あたしは稜希のことを信用も、信頼もしてる。少なくとも今は友達をやめたりしない。この先になにがあるのか、わからないけど」
さすがに度が過ぎたいたずらだと思ったのか、すこししんみりした雰囲気になった。
「しんみりするなんてお前らしくない。別にもう油そばのことは怒ってないから安心しろ。ただし、しばらくアブラっぽいものはやめてくれ」
「ふふ、稜希ならそう言ってくれると思ってたよ。よかった、ちゃんとお話できて」
「話も聞かないまま仲違いするのなんてもったいないにもほどがあるからな」
「ふふ、あたしのいたずらに付き合ってくれてありがと。楽しかったよ」
少しおセンチな雰囲気になりながら、学校まで戻る道のりを歩いていった。




