日常の向こうに(2)
「…………わかりました」
三度目ともなると、手慣れた様子で用紙に記入している。まあ、きっと鼈宮谷さんなら問題なく合格してくれると思うけど。
「今日の用件はなんですか?」
「鼈宮谷さんが入学試験を、オレたちはその付き添いです」
「あ、ああ! 試験を受けるんですか。合格すれば正式にこの学校へ編入できますね。頑張ってください」
「…………ありがとうございます」
しかし。あの警備員さん、37℃を超えている人に逐一文句をつけているんだろうか? 死ぬほど面倒そうだ。
「…………それで、どこへ行けばいいんですか?」
「えっと、メールによると…………2号館の4階に行けばいいそうだよ。401教室で試験をするって」
「…………2号館は、あそこですね」
どの建物が何号館なのか、でかく数字の看板が立てられている。内部事情を知らない人間でもかんたんに判別することができる。
「当然だけど、あたしたちは試験に同席できないからね。自分で向かって、自分で受けてきて。応援してるよ」
「…………わかっています」
「オレたちは昨日と同じように図書館にいるから、終わったら学校のWi-Fiとスマホを使って連絡してくれ。接続するIDとパスワードはそのへんのポスターに書いてある」
「一度きりって言われちゃったから、図書館に入るのは難しいよね…………」
「まあ、入れないことはないと思うが。余計な面倒事にしたくなかっただけだ」
「それじゃ、一旦ここでお別れだ。試験は3科目、1科目あたり90分あって、休憩時間も入るから…………5時間くらいだな」
「ひえーっ。5時間も図書館にこもるのはやることないよー」
「期限が先なだけでやらなきゃいけないレポートがまだあるだろ? いっそソレを片付けちまうって手があるぞ」
「うう…………まあ、ただ待ってるよりはいっか…………だからあたしにもパソコンを持たせてきたのね…………」
「オレがパソコンを貸すと、単純にレポートをやる時間が2倍かかるってことだからな。お前も持ってきたほうが同じ時間で終わらせられる」
「ってな感じでこの学校はレポート地獄だから、澪ちゃんも編入したら気をつけるんだよ」
「…………ふふ。微笑ましいです。がんばりますね」
そう言って、鼈宮谷さんは2号館へ入っていった。
「ま、オレたちもぼーっとしててもつまらんし、さっさと図書館に行こうぜ」
「うん」
「…………ふん。…………ふん」
なにやらいつになく真剣にレポートに取り組んでいる。いつもならオレに内容を見せてくれとか、そういうお願いごとをしてくる頃合いなんだが。




