探れる沼(11)
「最初から、とは?」
「…………空から降ってくる前から、稜希さんや結月さんと知り合えていればよかった…………ということです。きっと、楽しい毎日を送ることができていたと思います」
「そうなのか? オレたちとしては自覚がないが」
「…………きっと、この人たちと一緒なら…………ボクも幸せになれる…………そう思いました」
「おいおい、自分が不幸みたいな言い方はしないでくれよ。鼈宮谷さんは不幸なんかじゃない。…………まあ、自分の過去を失ってしまったのは不幸だと思うけど」
「…………ふふ。稜希さんのその優しさに包まれていたいですね」
不思議な表情だった。
彼女には過去があるのか、ないのか。あったとして、現在に影響を及ぼすことはあるのか。その問題を解決しないと、鼈宮谷さんに真の安全は訪れないだろう。
だが、彼女に安全を施すにはどうしたらいいのか。出自を知らない以上、対応するのは難しい。
オレは鼈宮谷さんがなにかを知っていると見ている。少なくとも空から降ってきたあとのことは事実だろうが、降ってくる前のことは…………なにかあるはずだ。
彼女の発言から、真意を引き出すしかない。友人の腹を探りながら、真実を追い求めるのだ。
「…………ところで、駅に着くのはいつですか?」
「この電車は快速急行だから、だいたいの駅はスキップしてくれるし…………って、もう次の駅だぞ。それどころかもう着くわ」
電車が減速を始めたときには、もう降りる駅に着くところだった。なんだかんだ言ってそれなりに場を持たせられたし、悪くはなかったのか。
「さ、降りるぞ降りるぞ。せっかく買ったパソコンを落とすなよ」
「…………はい」
電子音とともに、自動でドアが開いた。
「さささっ」
「持とうか?」
「…………いえ、大丈夫です」
そんなに重くはないだろうが、なんとなく持ってあげたほうがいいのかなと思ったのだが。紳士になるのは難しい。
「あちいなあ…………」
駅に降り立った途端、モワッとした空気に包まれる。夜だというのにこの暑さは嫌になってくる。
「わかってるとは思うがしばらく歩くからな」
「…………はい」
「スマホスマホ…………」
交通系ICカードがスマホに入れられるようになってから手荷物が減って便利になった。その代わりスマホを落としたら終わりというデメリットがあるが。
「ピピッ」
定期外の区間のため、電子音が二回鳴った。
「こんばんは〜。ふたりとも。デートは楽しかった?」




