探れる沼(10)
「…………そうなんですね。世界を席巻している大企業…………」
彼女がなにかを言いたげな表情を浮かべたが、言葉として発することはなかった。
「…………パソコンは、生活必需品ですか?」
「そうだな。もちろん使わないか使えない人もいるが、豊かで便利な生活を送るにはパソコンやスマホは必須だな」
「…………わーるどぱーそねるおーがにぜーしょん」
「え?」
よく聞き取れなかった。電車のレール音でぼそっとつぶやいた程度だと聞き取れないことがよくある。
「…………稜希さんに言ったわけではないので気にしないでください」
「お、おう? それならいいんだが」
独り言なら深く突っ込むわけにもいかない。なんと言ったのか気になるがここは諦めることにしよう。
「じーっ」
「…………」
「…………」
いままではパソコンの話題で特に問題なく会話が続けられていたが、話題が終わってしまうと再び微妙な空気に包まれてしまう。
オレ、鼈宮谷さんと気が合わないのかな。それともこの微妙な距離感で間違いはないのかな。
「…………沈黙していたって、一緒にいることにはかわりありませんよ」
オレの表情の変化を見抜いていたようだ。洞察力が優れた女の子だと思う。表情から感情の変化を読み取り、的確な答えを出すことができる、そんな人。
「…………稜希さん、いつも沈黙が続くと気まずそうな表情になりますね」
「ほ、ほら。オレは陰キャだから、なにかしら会話で場を持たせないといけないのかと思ってしまうんだよ」
「…………会話は必ず必要なものではありません。一緒の空間にいて存在を認識していることが、友人として必要なものなのです」
「そう言ってもらえるとオレとしても嬉しいが…………」
鼈宮谷さんのほうからはじめて《友人》という単語を聞いた。オレは友人として認識されているのか。それはそれで嬉しい。
「…………ボクは、幸運なのかもしれません。本来ならば、ボクは孤独であるはずでした。知らない土地に放り出されて、わけがわからないまま生きていく…………。
それを救ってくれたのは、稜希さんと結月さんのおかげですよ。…………感謝、しています」
彼女の目は優しかった。
「まあ、鼈宮谷さんが来てから生活費がかさんでいるのは事実だけど。感謝してもらえているのならそれはそれで悪くなかったのかなと思うよ」
恥ずかしくて、鼈宮谷さんのほうを向けない。
「…………稜希さんや結月さんと、最初から出会っていればよかった…………と思うときはありますよ」




