探れる沼(9)
そういう理屈があるというのはたしかに知っている。だが少なくとも一般のお店の中で公表することではない!
「ま、まあ…………見ているかどうかは鼈宮谷さんの想像におまかせするよ」
「…………そうですか。では見ているんですね」
なかなかのツワモノである。
「ほ、ほら、店員さんが商品を持ってきたようだぞ。お会計してきたほうがいいんじゃないか」
「…………ふふ」
にやりと、なにかを見通すような目で見られてしまった。ああ、オレの男としての威厳が…………。
「お待たせいたしました。こちらがご希望の商品となります。このままお会計に進まれますか?」
「…………はい」
「では、こちらのレジへお越しください」
店を出る頃にはすっかり暗くなってしまっていた。
心地いい感覚で揺られる電車内。紙袋に入れられたパソコンは、盗まれないようにしっかり両手で抱えている。
「ところで、買ったのはいいが、使い方はわかるのか?」
「…………わかりませんし、知識もありません。ですが使っていけば慣れると思います」
今どきのパソコンはほとんど知識がない人でもそれなりに扱えるように使いやすくなっている。鼈宮谷さんのような何もかも覚えていない人まで当てはまるかはわからないけど…………実際に使って覚えるしかないだろう。
「オレが知っている範囲の知識でよければ教えられるぞ。わからなかったら聞いてくれ」
「…………ありがとうございます。その優しさが、身にしみます」
鼈宮谷さんはときどき聞いていて恥ずかしくなるようなセリフがポンと出てくる。悪気があってのものではないんだろうが、ちょっとこそばゆい。
「じーっ」
正直なところ、バッグの中にお金が入っていたのならオレの生活費を多少出してくれと言うのは野暮か。しかたない…………。
「…………ふんふん」
パソコンが買えて上機嫌な鼈宮谷さん。まあ、学校にも必要なものだし、買ってダメなものではないけど。
「…………これ、システムってなんですか?」
「OSってこと? msOS11だよ。OSってのは、パソコンの根本で動いてくれるソフトってこと」
「…………そのシステムを作っているところは、大企業なんですか?」
「不思議な質問だな。大企業だぞ。世界で3番目にお金を持っている会社で、社長さんに至っては世界で4位のお金持ちだ。そりゃ、こんな感じにパソコンが世界中で売れてたらお金持ちにもなるよな」
「…………」
「鼈宮谷さんがパソコンを見ているときに選ぶか考えていたパソコンの中には世界1位の企業だってあるぞ。まあ、パソコンと言うかIT企業は世界中で使われるからな」




