探れる沼(4)
名前を書いたメモ用紙を渡してきてくれた。
「珍しいお名前だな」
「そうね。漢字が漢字だからミトちゃんとも言われるし、ひまちゃんとも言われるし、適当に呼んでくれていいよ」
「み、みとさん」
「ミトさんってなんか微妙に違和感を感じるんだよ。ミトちゃんにしてほしい」
「わ、わかった。ミトちゃん、よろしくな」
「はい、よろしく」
見てわかる…………いや、見なくてもわかるレベルの陽キャさんだ。オレみたいな陰キャが会話をしていいレベルの人間ではない。
「ふ〜ん。この人が結月がよく言ってる彼くんねえ〜。まあ、なかなかいいんじゃない? 結月には合ってると思うよ」
まじまじと、舐め回すような視線で見られた。
「あたしには、ってどういうこと! あたしは稜希みたいな陰キャじゃないよ!」
結月にも陰キャと言われてしまった。いや、自分でも認めてはいるが、他人から言われるとちょっと悲しい。
「あはははっ。陰キャが似合うって意味じゃなくて、結月がついていきそうなタイプだなあと思ったわけよ」
「うう、あんまり納得はしてないけど…………」
「これから関わる機会も増えるかもしれないから、よろしくね、稜希くん」
「あ、ああ…………」
「ところで、そちらの人は?」
「…………はじめまして。鼈宮谷澪と言います。この学校に編入予定のものです」
「……………………」
ミトちゃんさんが不思議そうな表情に変わり、首を傾げた。
「鼈宮谷澪、さん? んん? アンタ、どこかでわたしと会ったことがない?」
「…………え?」
「いや、確証があるわけじゃないんだけど。どっかでアンタを見たことがあるような気がしたんだけど、気のせいかも」
普通の人に空から降ってきた女の子なんです、とはとても言えまい。
「…………ボクは、初対面だと思います」
「そ。それならいいんだけど。わたしの勘違いだったみたいね。澪さん、よろしくね」
「…………よろしくお願いします」
陰、陰、陽、陽と明暗がはっきりと分かれている人物構成だ。傍から見れば不思議なもんだ。普通なら陰は陰と、陽は陽と付き合うものなのだが。
「ひまちゃん、どうせなら同じ席で授業受けない? ひまちゃんは成績いいしせっかくだから授業の内容教えてよ」
「まあ、いいけど。ただ自分でやらなきゃダメじゃないの」
「あはー。それはご愛嬌ということで」
「稜希くん、澪さん、この授業についていけてる?」
「オレは特に問題はないが、鼈宮谷さんは微妙なところだな。今日はじめて受けるし」




