探れる沼(3)
「そう言えば鼈宮谷さん。この学校は授業の進捗や期末考査でレポートがあるんだけど、パソコンは使えるのか? パソコンのオフィスソフトを使って文書を作成するんだが」
「…………ああ、それならたぶん問題はないと思います。…………なんとなく、直感で使えそうな気がして」
「直感で使える? すごいなそれは、もしかして記憶喪失になる前はITに強い人だったりするのかもな」
「…………わかりませんが、パソコンにどことなく親しみを覚えるのは事実です。それが経験によるものなのか、ただの知的好奇心によるものなのかはわかりません」
「じゃあ、ちょっと使ってみるか?」
ちょうどパソコンを持ち歩いていたことだし、ちょっと使わせてみてどれぐらいできるのか見てみよう。興味がある。
「…………触っていいんですか?」
「オレは気にしないよ。どんな感じに使うのか見てみたいんだ」
「…………ふんふん」
田んぼの田のロゴが描かれたノートパソコンを開く。特に不思議そうに扱う様子はなく、まるでオレたちのようなデジタルネイティブ世代のような雰囲気すら感じる。
「…………パスワード、お願いします」
「ああ、すまんすまん、今解除する」
ログイン画面からデスクトップへ移動し、操作ができるようになった。
「どうだ、使えそうか?」
「…………UIに見覚えはありませんが、キーボードとトラックパッドを使って操作をすることに覚えがあるような気がします。どこか遠いところで、なにかを使って…………」
「さっきも言ったが記憶喪失になる前はパソコンに強い人だったのかもな、記憶のどこかで昔のことを思い出しはじめているのかもしれん」
「…………そうかもしれませんね」
「あっ、結月じゃ~ん。久しぶり! ってちょっと前に会ったばかりだけど」
「んあ? ああ、ひまちゃん! 久しぶり!」
オレの知らない女性がやってきた。この人は誰だろうか。結月は交友範囲が広いから、オレの知らない友達もたくさんいる。
「結月もこの授業取ってたんだ。何回かやってるのに一度も気付いたことなかったよ」
「いつもは教室の端っこの方で目立たないようにしてるからねー。居眠りしていても怒られないし」
「まーた居眠りしてるの。知らないよ留年したって」
「大丈夫だよ。なんとかなるから」
「それで、そっちの男の子が例の彼氏くん?」
「彼氏!? ち、違うよ!」
露骨に動揺しはじめてちょっと面白い。
「わたしははじめましてかな? わたしの名前は水卜陽莉。よろしくね」




