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探れる沼(2)

 最初は鼈宮谷さんを怪しんでいたし、今でも結月よりは信用度が低いのも事実だ。だが、彼女を放っておいたら、招かれざる結果を呼ぶような気がして…………つい気にかけてしまう。

 これがオレの優しさなのだろうか。他の人間だったら、とうに見捨てているのだろうか。わからない。なにも、わからない。

「…………宗教。信じるものがあるということは、幸せなことですね…………」

 彼女は、少なくとも空から降ってきたあとのことはなにも知らないのであろう。この国も、文化も、風土も、知らないふりをしているようには見えなかった。

 だが、記憶喪失であるかと言われると怪しいところだ。彼女はなにかを知っている…………これがオレの見立てだ。直接、本人に聞くわけにもいかないが。

 彼女もそれとなくオレたち、ひいてはここについての事柄を知りたがっている。オレたちも鼈宮谷さんの出自を知りたがっている。そこにはなんらかの思惑があり、目的がある。

 お互いに、ただ痛くもない腹を探っているだけのアホな絵面だったらいいのだが。

 授業後。

「…………んあ? 授業終わった?」

「最初の5分で寝始めて終わるまで一切起きなかったな、その根性だけはすげえと思うわ」

「まあ今回ぐらい寝ていてもレポートには支障ないよ。大丈夫大丈夫」

「別に寝ててもいいけど、オレにレポートを教えてくれってのはやめてくれよ?」

「…………」

 猫がくさいものを嗅いだときのようにぽっかり口を開けた。

「まあ、ちゃんとやるよ、たぶん」

「やれやれ…………」

 教室移動。

「次の時間は生物学だ。今回は大教室だからいいけど、普段は実験室だから鼈宮谷さんはまだ入れないぞ」

「大丈夫大丈夫。次の講義を受けるときまでには正式に授業を受けられる権利を持ってるから」

「鼈宮谷さんの勉強のレベルがどれぐらいかわからないのだが…………実際問題今日授業を聞いてみて内容は理解できたのか?」

「…………はい。思っていたよりは難しくない内容だなと思いました。こういう考え方、研究をしていると、とても参考になります」

 記憶喪失なのに勉強だけはついていけるということがあるのだろうか。

「稜希が教えてくれないなら今度から澪ちゃんに聞けばいいもん。ね、澪ちゃん」

「…………ボクがわかる範囲であれば教えますよ」

「やったね。これでレポートは問題ないね」

 授業が始まるまであと15分ほどある。そう言えば、鼈宮谷さんについてわからないことを聞いてみるか。

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