探れる沼(1)
「ふぃ〜〜〜〜終わらせたぁ! これで単位は間違いないね!」
「期末のレポートじゃないんだよなあ」
「えーっ?! 違うの?!」
「期末のレポートがこんなクソかんたんだったらみんながみんなよってたかってるわ。ただの中間レポートみたいなもんだ」
「うわ〜〜〜〜…………」
レポートをやっつけ、鼈宮谷さんとお話をし、結月の完成を待っていたらちょうどいい時間帯になった。ちょうどよく事が進むと、時間を有効に使っているような気がする。
「さて、次は人文科学だな。鼈宮谷さんが興味のあるジャンルじゃないか? 人々の文化や生活に言及する授業だし」
「…………そうですね、すごく興味があります」
「今回も大教室だ。鼈宮谷さんひとり増えてるぐらいじゃ誰も気付かないし、思う存分聞くといいと思うぞ」
「…………ふふ」
《――――で、あるからして。長い歴史の中で高度な文明と技術を手に入れてきた…………》
鼈宮谷さんは真剣に、かつ食い入るように話を聞いている。もうひとりは…………。
「オマエな…………」
完全に寝ている。いや、寝ないとはなんだったんだよ。レポートを提出したから今は聞かなくていいとか思ってるのか?
先ほど作成していたレポートは人文科学のものだった。この授業は定期的に授業の理解度を図るためのレポートの提出が命じられる。
直近までのレポートは書いたから今回ぐらいは寝てもいいかって魂胆か。まったく、これだから…………。
「鼈宮谷さんは、この世界、言語、通貨、社会情勢、国とか…………気にしていたよな。こういう授業はその探究心にピタリとあてはまるんじゃないか?」
「…………そうですね。みなさんがどんな暮らしをしているのか、してきたのか、知りたかったので助かっています…………」
人々がどんな暮らしをしているのか気になるというのはどういう要求なんだろう。そんなに他人に興味があるのかなあ。
いいや、生まれたときからの積み重ねがあるのと比べてはいけないか。彼女にとっては知らない土地に放り出されたわけだから、どんな生活をしているのか予想もつかないのか。
「…………文化や風土は違えど、この世界は平和なんですね…………」
オレなりに、彼女を深く理解しようとした。身寄りのいない寂しさから、救い出してあげようと思った。
彼女について探れば探るほど…………底なし沼のように、無限に沈んでいく。まるでそれは、光の届かない場所があるかのように、深く…………深く。




