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知らない世界(9)

「だから…………たくさん褒めて? たくさん、あたしも可愛がってほしい」

「褒めるって、なにをしたらいいんだ?」

「…………」

 言いにくそうに目線を反らし、もじもじとうなだれる。

「なんだよ、一緒に寝ている状況で恥ずかしがってどうするんだよ」

「それは、そうなんだけど…………」

「今ならサービスでだいたいの要望は応えてやるぞ。言ってみろ」

「…………その、頭を、撫でてほしい…………」

 一緒にセックスをしてくれ! とかの要求かと覚悟して構えていたら、案外普通の要求で拍子抜けした。

「そ、そんなんでいいのか?」

「そんなんってなによ! こっちはちょー恥ずかしい思いしながら言ってるってのに!」

「まあ、それでいいならやってもいいが」

「そっと、優しくだよ、女の子はデリケートなんだから、お豆腐を触るみたいに」

「注文が多いな…………」

 そっと、右手を伸ばして結月の頭の上までかざす。だが、実際に触れてセクハラだの言われたりしないだろうか。そこが不安で、触れるには至らずにいた。

「なんであたしの頭の上で止まるのよ、あたしがいいって言ってるんだから大丈夫だよ」

「そ、そうか…………」

 そっと、結月の頭に触れた。

「んっ…………」

 思いのほか、結月の髪はしなやかで、肌触りがいい髪質だった。いや、他の女の子の髪の毛とか触ったことがないけど。

「もっと、よしよしして…………」

「よく頑張ったな、結月。少しは休んでもいいんだぞ」

「んん…………」

「褒めるがてら教えてくれ。結月には鼈宮谷さんが妹分のように見えているのか?」

「まあ、もしあたしに妹がいたらこんな感じに接しているんだろうな、って思いでやっているよ」

「妹分か…………オレに妹がいたらどうなっていたんだろうな」

「稜希は嫌われそうだよ。ほら、横柄だし」

「それは間違ってねえな。そのとおりだと思うわ。直す気もないけど」

「こんな扱いづらい男をうまーく調理できるのはあたしだけなんだから」

「まあ、お前以外に友達もいねえしな。そうかもしれないな」

 頭を撫でると、どこからともなくいい匂いが自分の嗅覚を刺激してくる。これが女の子の匂いってやつか。かなり気持ち悪い表現だと思うけど。

「もし、もしもだよ。もしもあたしに彼氏ができたら、どうする?」

「どうするもなにも、普通におめでとうと祝ってやるだけだな。なんならケーキでもおごってやるか?」

「そっか、祝ってくれるんだ。そっか。あは」

 よくわからないことで喜んでいる結月だった。


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