知らない世界(6)
今から寝るのに電気をつけて準備をするなど面倒だ。さっさとベッドに入って寝てしまおう。
布団を掴み、ガバっと中に入る。
「…………!」
むぎゅ、っと。なにか柔らかいものが二の腕に当たった。
というよりも、なぜか布団が温かい。電気毛布を使うような季節でもないし、なんだ?
真っ暗の中を過ごしていると、だんだんと目が慣れてきて月明かり程度の光でも見えるようになってきた。
「……………………ばか」
ふと気がつくと、目の前には鼈宮谷さんの部屋に行ったはずの結月が布団に入っていた。
「――――うわっ!!」
「大きな声出さないでよ、バカ…………」
「な、な、なんでオマエがここにいるんだよ」
「別に。あたしは気分で稜希のベッドで寝ることにしたの。悪い? 普段稜希の手伝いをしてるんだから別にこれぐらいいいと思うんだけど」
「これぐらいって…………オマエ自分がなにをやっているのかわかってるのか?」
「わかってるさ。でもこうしたかったの。別にいいじゃん、これぐらい」
ずいっ、っと。身体をくねらせてオレとの距離を縮めた。
目と鼻の先に結月の顔がある。ふとした拍子に動いてしまえば、かんたんにキスができてしまう距離だ。
「ねえ、教えてよ。澪ちゃんが来てからここでどんな生活をしていたか」
「どんなもなにも、普通に飯を作って普通に洗濯して普通に風呂に入って寝ていただけの話だよ」
「そうじゃないでしょ。年頃の男女なんだから、なにかあったでしょ。教えてよ、それを」
「別に、なんにもねえよ…………」
「本当に? だって急に仲良くなったように見えるもん」
「そりゃ出会った当初よりは慣れたが、仲良くなったってほどじゃねえよ。気にしすぎだ」
「ふん。どうだか」
そう言いつつ、オレのベッドから動こうとしない。マジで、朝まで一緒に寝るつもりなのか…………?
「…………おまえ」
オレは、どうしたらいいんだ…………?
「いや、いくらなんだって恋人でもないやつと一緒に寝られるわけがないだろ。わがままも大概にしろよ」
「……………………」
「だいたい、幼馴染だからといってなにをやってもいいわけじゃねえだろ、分別をつけろよ、さすがによ」
「……………………」
「そもそも、ここは…………」
「……………………」
「えっ…………?」
無言で、オレの胸に抱きついてきた。
その力は案外強く、最初の一瞬こそ引き剥がそうとも考えたが、すぐにそんなことはできないと悟った。
まるで、秘めたる思いを全力でぶつけてきているような力の強さだ。