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ほんのわずかな日常(5)

「…………家でも稜希さんに親切にしてもらって、助かっています」

「親切? 稜希が親切? 親切ってまさか、澪ちゃんついにヴァージ…………」

 前言撤回。信用されていないというよりもコイツがピンク色なだけだった。

「…………あはは、そんなことはされていませんよ。お洗濯を手伝ってもらったり、お料理を手伝ってもらったり。本当はボクがやるべきことを手伝ってもらっただけですよ」

「…………………………………………」

「な、なんだよ結月。急に黙り込んで」

「別に。そのうちわかるよ」

 ニコニコと笑顔を広げているが、声のトーンは不機嫌そうだった。行動と言動が一致していなくてちょっと怖い。

「さて。職員棟に着いたな。ここからは結月と鼈宮谷さんのふたりで頼むわ」

「え? なんでついてこないのさ。ちゃんと来てよ」

「オレがこういう交渉事が大の苦手だって知ってるだろ。コミュ力おばけのお前ならこういう場面でもすんなりうまくいくだろ」

「えーっ。まあ苦手なのは知ってるけどさあ。稜希が来ないと締まりがないというか…………」

「いいからいいから、おまえらふたりで行ってこい。オレは廊下のベンチで待ってるから」

「はいはい、しょうがないなあ」

 ふたりで仲良く詰め所に入っていった。アイツのコミュ力なら教員をうまく懐柔して入学試験にまでこぎつけることができるだろう。

 ところで…………一ヶ月前。区役所の職員さんが言っていた言葉が気になっている。

《知ってのとおり、人や物がこつぜんと姿を消してしまうことです。日本では2019年に9歳の女の子がキャンプ場で失踪、現在も行方不明になっています。

 海外の事例だと1939年に3,000人の中国兵が突然霧の中に姿を消しました。日本国内だけでも、未解決の失踪事件は数多くあります》

《正確には神隠しの『反対』に遭った人ではないかと考えています。呼称がないのでなんと呼べばいいかわかりませんが、こつ然と姿を表す……そしてその前の記憶は持ち合わせていない…………》

《私たちが今住んでいるこの空間には『時間』が流れています。こうやって会話をしている間にも。時の流れというのは一方向であり、すべての概念はその時間の流れに身を任せています。

 ですが、なんらかの理由でうずしおのような場所に巻き込まれた場合…………時間の流れから逸脱することになります。鼈宮谷さんはそれに巻き込まれた人なのではないでしょうか》

 あの話を聞いた後、オレなりに調べられる範囲で図書館をめぐり、スマホで検索し、実際の事例をたくさん見てきた。

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