不思議な女の子(13)
学生のときにスクーターでトラックに激突。そのまま病院に運ばれたが目立った外傷はなかった。ただ…………そいつが目を覚ますと自分の世界のなにもかもが変わってしまっていた。
家族をまったく覚えていない。うるさく話しかけてくるおじさんとおばさんとしか認識できない。その人はイライラが募り、そのおじさんとおばさんに怒鳴り散らしてしまう。
怒鳴ったと思えば高熱を出して再び寝込んでしまう。次に目覚めたときはやけに丁寧でおとなしい性格になり、記憶喪失によって人格が変わってしまったんだ。
その人は寝ること、食べること、身の回りのこと、生まれてから今まで生きてきた分の記憶をすべて失ってしまっていた。端的に言えば0歳からの再スタートだ。
記憶喪失は記憶が戻ることはないが、それ以降に覚えたことについては問題ない。その人はまた0から知識を積み上げていったんだ」
「…………………………………………」
「少なくとも鼈宮谷さんは、身の回りのことはできる。人間社会の基本的な知識もある。だが流れ星となって現れる前のことはわからない。そこに、ヒントがあると思うんだよ」
「……………………」
「少なくとも基本的な知識や経験を持ち合わせているということは、これまでになにをしてきたのか思い出せるチャンスもあるのかもしれないじゃないか。その可能性に賭けてみたい」
「…………」
「鼈宮谷さんがウソをついていると言いたいわけじゃない。オレたちにとってもあの前が見えないほどの眩しい光と流れ星、その現象に対する合理的な理由が知りたいんだ」
「…………稜希さんは、知りたがりなんですね」
「ははは。よく言われるよ。引っかかったことは調べないと気が済まないんだ」
「やっほー! 服持ってきたよ! 着替えよ!」
ノリノリでやってきた結月は、もう恐怖心など微塵も抱いていない様子だった。
「はあ?」
区役所の職員は非情なため息を漏らした。
「だから、自分の名前以外のことがわからないんです。記憶喪失なんです。戸籍を発行してもらえませんか」
「そう言われてもですねえ…………その人がウソをついているかもしれないじゃないですか」
「この顔がウソをついているように見えますか!?」
ぐいっ、と鼈宮谷さんの頭頂部を掴んで事務員に向けさせる。
「自分の名前がわかっているわけなんですから、日本のどこかに戸籍があるかもしれないじゃないですか。それに、暴力を振るう人から逃げるためにやってきたのかもしれませんし」