不思議な女の子(12)
「なにをするつもりだ?」
「現れ方がどうであれ、少なくとも澪ちゃんは自分の名前しかわからない状態なわけでしょ。それじゃ記憶喪失の人間と変わりないわけじゃん」
「ほう」
「だから、区役所に言って事情を説明して、澪ちゃんの戸籍を発行してもらわないと。そうしないと学校にも通えないでしょ?」
「…………おまえ、意外とそういうこともできるんだな」
「意外とってなによ! これでも真剣に澪ちゃんのことを考えているんだから!」
「…………戸籍…………」
「戸籍ってわかる? 簡単に言えば澪ちゃんが澪ちゃんとして国に登録することなんだけど」
「…………ああはい、戸籍はわかります。ですけど、こんなボクでも大丈夫なのかな、って思ったんです」
「事情をちゃんと説明して、困っていることをアピールすれば動いてくれると思うよ。なんなら、まだ昼前だし相談だけでも行ってみる?」
「…………そうですね、わかりました。でも…………」
チラチラと、自分の衣服を見回す。
「ああ、着替えがないのね。あたしの服じゃちょっとサイズが違うし。どうしようかな…………」
結月は身長165センチあるのに対して、鼈宮谷さんは145センチくらいだろうか。そのまま結月の服を着たらダボダボになりそうだ。
「あっ、そっか。あたしの小さい頃の服をかせばいいのか。ちょっと待っててね」
オレの家から出ていき、隣へ戻っていった。
「…………結月さんは、どうしてボクに親切にしてくれるんですか?」
「まあ、放っておけないんじゃなかろうか。まあ、良くも悪くもか弱そうだし。この言葉で気分を害したらごめんな」
「…………それは別にかまいません。自分でもひ弱そうだな、って、思いますから」
「鼈宮谷さんが現れたときなんてビビりまくってたぞ。オレの後ろにピッタリくっついて、なるべく現れた現場を見ないようにして。
そこからこの扱いになったから、まあ気に入られているんだと思うぞ」
「…………そうですか。それなら、ボクも嬉しいです…………」
「鼈宮谷さん。本当になにも思い出せないのか? オレたちはアンタの出自がわからない以上、アンタの自己申告だけが頼りなんだ」
「…………今、話せそうなことはなにもないです」
「そうか…………残念だな」
「…………ボクみたいな人、他にいませんか?」
「いないな。少なくとも空から降ってきたやつなんて聞いたことがない。ただ…………」
「…………ただ?」
「前にインターネットのニュース記事で見た、記憶喪失になった人の話なら見たことがある。そいつは行方不明者ではなく、交通事故で記憶を失ってしまった。