彼女の思い出(11)
「…………物心がついたころには、親はいませんでした」
「じゃあ、どうやってこの病院に入院しているの?」
「…………親はいるかどうかわかりませんが、親の代わりになるような人がいます。その人の助けで生活することができています」
「なんでその人は見舞いに来ないのさ。わたしがこの病室に来てから何日も経つけど誰も来てないじゃん」
「…………あの人は忙しいので。来ても1ヶ月に1回、忙しいと3ヶ月に1回になったりします」
驚いた。その程度しか会えない存在で許せるものなのかと思った。母は少なくとも3日に1回は見舞いに来るというのに。
「アンタは…………それでいいの?」
「…………え?」
「苦しみながら病気を抱えて、日々を生きるのも辛くて、その上自分を見てくれる人がぜんぜん会いに来てくれなくて、それでいいの?」
「……………………」
一瞬だけ目をそらしたが、すぐに戻った。
「…………別に構いませんよ。それが運命なら、仕方のないことですから」
ガツンと、後頭部を殴られたような衝撃があった。自分が一番不幸だと思っていたのに、それ以上の人物がいるとは思わなかった。
いわば自分が世界の中心だったのが、中心でないことがわかったような気分だった。
「なんで…………」
「…………?」
「なんで、アンタはそんな状況でも我慢できるの…………嫌なら嫌って言えばいいし、辛いなら辛いって言えばいいじゃん。どうして全部抱え込むの?」
その言葉は、自分自身にも突き刺さるものだった。ある意味、わたし自身の状況をわたしが説明しているようなものだった。
「…………ほかにできることがないからですよ」
「そんな…………」
「…………この世界は、醜いです。醜くても、その中で必死に生きていこうとする人たちがいます。必死に生きようとする力が弱いボクのような人間は…………必然的にこういう運命をたどるのです」
「じゃあ、あがけばいいじゃないの! 必死に!」
その言葉に彼女は憂いを帯びた笑みを浮かべた。
「…………ボクが頑張らなくても、代わりになることができる人はたくさんいます。その人に、幸せを分けてあげたいんです」
「……………………」
わたしがなんとかしてあげる! とは言えなかった。そこまでの執着はなかったし、なによりわたしには力がなかった。
もしもわたしが世界を救える存在だったのなら、こういう不幸な子から助けていくのだろう。どうして、この人にこんなにも影響されてしまったのかわからない。




