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彼女の思い出(10)

 荷物は先に親が運び込んでいたようだ。必要なものはすでに揃っていて、わたしはただベッドに寝るだけ。いたっていつもどおりのはずだったのに。

「…………はじめ、まして…………」

 別に興味がなかった。誰と一緒であろうと、同じ空間にいるだけの他人であることに変わりはない。ただ…………名前ぐらいは聞いておこうかな。

「はじめまして。お名前は?」

「…………澪。鼈宮谷澪と言います…………」

 不思議な名前だなと思った。世間知らずのわたしでさえも、それが珍しいものなのだと気が付くことができた。

「そう。わたしは水卜陽莉。よろしくね」

「……………………」

 わたしがそっけない返事をすると、それ以上の会話はなかった。思えば、このときが人生で一番荒んでいた頃だと思う。

「…………はあ」

 ふとため息が漏れた。なにをするにも疲れ果てていた。愛してくれない両親、自分の境遇、真っ暗な未来…………そのすべてが憎かった。

「…………寝よう」

 まだ夕方にもなっていない時間。どうしようもできないもどかしさを抱えながら、寝ることにした。

 鼈宮谷澪さんという少女と共同の空間で生活するようになってから数日。彼女は自分からなにかを語ることはなかった。

 語るどころか、1日の9割が無口で、看護師さんとのコミュニケーションのときのみに喋る様子。親が見舞いに来ることもなく、いつ見ても孤独だった。

 わたし以上に孤独な人間がいるのかと驚いた。親にも愛されず、恵まれない身体で、先の見えない未来が広がっている…………はずだったのに。

 わたしはこの上なく不幸な存在だったはずなのに。今、ここに、わたしを超えて不幸に見舞われているように見える少女が生活している。

 そう考えると、彼女はどんな人間なのか知りたくなった。どんな境遇をもってして、ここに入院しているのか。知りたくなった。

 今思えばそんなことはどうでもよかったのかもしれない。わたしが一番不幸だと思っていたのに、それを超える存在が現れてすこし妬いていたのかもしれない。

「ねえ、鼈宮谷さん」

「…………はい?」

「アンタはなんでここに入院しているの? 親はいないの? 誰か、見舞いに来てくれるような人…………いないの?」

 今まで不思議に思っていたことを聞いてしまった。

「…………わたしは、免疫系の不全でここに入院しているそうです」

「へえ、わたしと同じような病気なんだ」

「…………親は、わかりません」

「わかんない?」


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