彼女の思い出(9)
母はショックを受けているようだった。父は終始面倒そうな表情で、我が子に関心を示していない様子だった。
わたしは、両親に好かれていようと嫌われていようとどうでもよくなっていた。少なくとも生きるのに必要なお金さえ出してもらえれば、あとの文句はなかった。
幸いなことに、母の影響により父は面倒ながらも治療に必要な資金を出してくれていた。それだけで十分だった。ほかに父に求めるものはなにもない。
「それでは、よろしくお願い申し上げます…………」
どうやら、話の内容がまとまったようだ。
「陽莉。今度からはいつもの病院でもっと進んだ治療を受けられるようになるわ」
話の内容を理解していなかったが、わざわざ遠くまで来たかいはあったようだ。
両親はわたしに対して愛情を注いではいなかったようだ。産んでしまったものは仕方ない、面倒を見るしかないという義務感で行動している様子だった。
わたしはそれでも良かった。愛情があってもなくても、わたしの面倒を見てくれていることに変わりはない。
自分が普通の人間と違うのは重々承知しているつもりだった。人と違うから仕方ない、生まれつきだから仕方ない、どうしようもないから仕方ない…………そんな感情ばかりが渦巻いていた。
「はあ…………疲れるわね」
その日は暑い夏の日だった。したたる汗をハンドタオルで拭いながら、病院から出てきた。医者との交渉にかかった時間は2時間ほどだろうか。
わたしにはどんな話をしていたのか理解しないまま、帰路につくことになった。
「さ、帰るわよ」
疲れ切っている母と、終始面倒そうな父。それに引き連れられるわたしは、こう考えていた。
どうして、生きているんだろう…………?
数日後。最終的に入院することになったのは普段通い慣れている大病院だった。だが、先の交渉の影響なのか、治療方針が若干変わったようだ。
「陽莉ちゃん。今日から病室が変わります。7階の771号室になりますので、お引越しの準備をしてください」
「わかりました…………」
お引越しと言っても、わたしが持っていくような荷物はほとんどない。重いものは持てないので、親が代わりに運ぶようだ。
別に珍しいことではなかった。今までも病室が変わることは何度もあった。ああ、またか、としか思わなかったのに。
――――彼女は、そこにいた。
「こんにちは。今日からこの二人部屋で一緒になる水卜陽莉ちゃんですよ。よろしくお願いしますね」




