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彼女の思い出(6)

 子どもながらに、それを奇異なものとして眺めていた。わたしには聞こえないように家から出て、庭で喧嘩をしていたものの…………結局のところ、聞こえてしまう。

 窓から親の喧嘩を眺めながら、自分自身に疑問を感じた。なぜ、わたしは生きているんだろう…………と。

 自分が生まれなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。自分さえいなければ、両親は仲良くやっていたのかもしれない。

 そう思うと、わたしが存在する意味とはなんだろう…………と子どもながらに思った。自分の心を繋ぎ止めていた糸が、プツンと切れるような感覚があった。

 少なくとも、わたしは他の人に迷惑をかける存在なんだ、自分が迷惑をかけなければ、みんなに喜んでもらえる…………そう思った。

「入院することになってごめんね。ママは毎日1回必ずお見舞いに来るからね」

 母の顔は、疲れ切っていた。その表情から余裕を感じ取ることはできなかった。子どもでも、自分に対して気を遣って接していることは言うまでもなくわかった。

「…………」

 この点滴を引き抜けば、自分は楽になることができるのだろうか。迷惑をかける人を、ひとりでも減らすことができるだろうか。

 ふと、手の甲に繋がる点滴の管を引き抜こうとした、そのとき。

「それに触らないでください!」

 巡回にやってきた看護師さんに止められた。看護師さんは迷惑そうな表情をしていた。自分が楽になろうとする行為さえも、迷惑と思われてしまうのか…………。

「陽莉ちゃん。おとなしく寝ていてくださいね。すぐに良くなりますから」

「…………わたしは、いつになったら普通になれるんですか?」

「え?」

「わたしは、いつになったら他の人と同じ生活を送ることができますか…………?」

 藁にもすがる思いだったのかもしれない。誰かに助けてほしかったのかもしれない。なぜ看護師さんにこんなことを聞いたのか、わからない。

「陽莉ちゃんは、原因不明の免疫不全に陥っています。他の人に比べて病気や怪我に弱い体質です。なので入退院を繰り返しているんです」

 看護師さんの言っていることは半分くらいしか理解できなかった。ただ、少なくともわたしが他の人よりダメな人間であるということだけはわかった。

「わたしは…………迷惑ですか?」

「陽莉ちゃんが病気で苦しんでいることに対して迷惑だと思ったことは一度もありません。自暴自棄になって点滴を外すほうが迷惑です。

 私たちは困っている人を助けるのが仕事です。困っている人を見て迷惑だと思うことなんて一切ありませんよ」


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