金の薔薇
平民の子供達と仲良くなった日の夜のお話です。
夜になると、親戚や知人、友人を招いた晩餐会があった。
あまりにも参加希望者が多くて、テーブルに着席する形式ではおいつかず、立食パーティーになったと聞いた。
大人気の歌劇のモデルになった夫妻が参加するわけだから、それは見に来たい人が多いのだろうとメイド長が言っていた。
付き合わさる子供にとっては、あまり嬉しくない話だが。
家族が正装に着替えて大ホールに行くと、そこにはたくさんの人達が詰めかけて来ていた。
早速父上や母上は、紳士淑女の皆さんに取り囲まれて、歓談の輪の中に入って行った。
子供の僕達はというと、僕達にも彼らの子供が殺到して来て、周りを取り囲まれていたのだ。
「トーマス様、アンダルシア様、ラグナス様、
初めまして!私達は、貴方方の従兄弟になります
マスケード子爵家の嫡男、ダリーと次男のデリーでございます。どうかお見知りおき下さい!」
あっ、こいつら、今日公園で絡んできた兄弟だ。
そうか、領主の孫って言ってたけど、母上の異母兄の子供達だったのか…
僕はアンダルシアとラグナスに「黙って」と合図を送ると、二人の方を向いて挨拶した。
「初めましてダリー様、デリー様。従兄弟の貴方方のお噂は予々伺っておりました。
僕達来たばかりで何もわからないので、従兄弟同士仲良くして下さい」
何も知らない風を装い下手に出ると、彼らはすっかり気を良くしたようだ。
「おお、それにしても、アンダルシア様はお母様によく似てお美しいですね。
まるでパサドンナ公園に咲く薔薇の花のようです」
君たちは、君たちが今褒めている女性の目の前で、唾を飛ばしながら散々罵っていたんだがな…
今のアンダルシアは、金色の長い髪を綺麗に巻いて、水色のリボンと共布のドレスで華麗な令嬢姿である。
長い髪を帽子に隠して男の子の格好をしていた男の子がアンダルシアだっとは、彼らは気がつかないようだ。
長々と褒めまくる兄弟に、アンダルシアはウンザリとした様子で棒読みの返事を返していた。
「そういえば、パサドンナ公園に金色の薔薇が咲いているのをご存知ですか?
今日僕達が発見したのですが、金色に咲く薔薇の品種はこれまで発見されていなくて、大変貴重なのです。
貴重な薔薇を平民が見るような場所に置いておくのは不用心ですから、私どもの屋敷の庭に移植するよう母に進言したのですよ」
「なんだって?」
ラグナスにあの後聞いたら、紫色の薔薇の中に一株病気にやられて弱っていた薔薇の株があったそうだ。
だから、ラグナスの肥料の水を与えたら金色の薔薇になったと言っていた。
紫の薔薇になったのはラグナスの肥料をやった株だけだから、他の薔薇の色は変わっていない。
あの株だけ抜いてしまうと、せっかくの薔薇の花壇が穴空きのみっともない姿になるではないか!
「ほう、それは珍しいですね。いつ頃それを行われるのですか?」
「明日の夕方、人足の者をやる事になっています。我が家に移植したら、ぜひ一度遊びにいらして下さい!」
決めた!!
僕達はそれを阻止する為に徹底抗戦するぞ!