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第5話 嫌われ令嬢 vs 悪役令嬢

 マリア・イザベラが挨拶(あいさつ)に来た翌日。

 歓迎の夜会が開かれた。


 この夜会では大きなイベントが発生する。

 悪役令嬢であるヨハンナ・フォン・ヴォーヴェライトが登場するのである。


 彼女は帝国の有力な侯爵家の令嬢であり、未来の皇帝の妻になることを夢見て、幼少のころから機会があるごとに長兄で皇太子のヨーゼフに言い寄ってきていた。

 性格が内気なヨーゼフはこれを明確には拒絶できず、周囲は2人の仲を半ば公認と認める向きもあった。


 マリア・テレジアも婚約者がいない状態では、愛するヨーゼフの好きなように任せていた。そういう彼女自身も夫のフランツとは恋愛結婚だったし、強く言えなかったのかもしれない。


 マリア・イザベラが出席者の有力貴族たちに紹介され、いよいよダンスが始まる。有力貴族が見守る中でのファーストダンスの相手を誰にするかは重要な意味を持つ。


 ヨーゼフはファーストダンスをマリア・イザベラに申し込もうとしていた。


 が、それを遮るようにヨハンナがヨーゼフに言い寄ってくる。

「ヨーゼフ殿下。ファーストダンスはいつものように私と踊っていただけますのよね」

「それは…」


 ヨーゼフがここできっちりと拒める性格ならば苦労はしない。

 マリア・イザベラの方を申し訳なさそうにチラチラと見ながら答えあぐねて逡巡している。


 ここはマリア・イザベラが対抗して名乗りを上げる場面なはずなのだが…


 あれっ?


 マリア・イザベラは、ヨーゼフの様子見を決め込んだようだ。

 確かにダンスというのは男性の側から申し込むのが一般的な礼儀だ。女子の方から強要するようなことを控えたのだろう。


 現皇帝のフランツは高齢のため実は先は長くない。ここは次期皇帝のヨーゼフに恩を売っておくか…


 私は助け船を出すべく、ヨハンナに話しかける。

「ヨハンナ。今夜はマリア・イザベラ様の歓迎の場ですのよ。ここは主賓に譲るべきではないのかしら? それともお兄様とあなたの関係はダンスを一度譲ったくらいで壊れるようなものでしたの?」

「そ、それもそうですわね。私としたことが先走ってしまいましたわ。さあ、ヨーゼフ殿下。マリア・イザベラ様をエスコートして差し上げてくださいな」


「ああ。わかった…」


 ヨーゼフはホッとした表情でマリア・イザベラをダンスに誘いに行った。


 案外簡単に引き下がったわね。ヨハンナもそんなに意固地な性格ではないのかも…


 するとヨハンナが小声で話しかけてきた。

「アマーリア殿下。ご助言ありがとうございました。次期皇后となる身としては、度量の広さを見せるべき場面でございましたわ」


 方向はちょっと間違っている気がするが、案外素直な性格なのね…


 だが、面倒くさいので、適当に相槌を打っておく。

「それをお分かりいただけるとは、さすがですわ」


 さて、肝心の私はどうするかだが…

 憎まれ令嬢ということが浸透しているのか、ダンスのお誘いはなかなか来ない。


 ここは是非ともカウニッツ様と踊りたいところなのだけれど…


 さりげなくカウニッツ様の視界に入る場所に移動し、チラチラと彼に視線を送る。

 ふと視線が合うと彼は私の方に移動してきた。


「アマーリア殿下。私と一曲踊っていただけますか?」

「はい。喜んで。カウニッツ先生」


 ──やったっ。これって結構脈あり?


 ダンスの先生以外と踊るのはこれが初めてだ、緊張で手が汗ばんでしまう。

 カウニッツ様の方は、大人の余裕だ。ごく自然にダンスをリードしてくれ、とても安心感がある。


 が、一方で(こんな素敵な大人にとって、14歳の小娘なんて眼中にないんだろうな)とふとネガティブな思考が浮かんでしまう。


 ──いやいや。精神年齢は24歳だから。頑張ろうよ。私!


 私は精一杯の笑顔でカウニッツ様を見つめる。


「なかなか上手いじゃないですか。ダンスのレッスンも頑張っておられるのですね」

「あ、ありがとうございます」


 これで一歩前進と思っていいのかな?

お読みいただきありがとうございます。


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