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第11話 嫌われ令嬢は宮中伯になる

 私は16歳となり、例によって大学(アカデミー)を1年で飛び級して卒業した。


 財政問題の他にも、世は啓蒙専制君主の時代に突入しており、帝国では政治的な改革も推し進める必要があった。

 ここでアンシャンレジームに固執して、帝国臣民の意向を無視し続けたら、フランスのように革命を起こされて、ハプスブルク家の人間は断頭台の露と消えかねない。


 このとき、私の脳裏にはまだあどけなく、愛嬌のある妹マリア・アントーニアの姿が脳裏を(よぎ)っていた。


 私は、以前から考えていたことをカウニッツ様と相談することにする。


「帝国では、現在様々な政治課題が山積しており、改革のスピードを上げることが急務です。

 ついては、宰相様がトップダウンで改革を強力に推し進めることをサポートする少数精鋭の直属組織を作ってはどうかと思うのですが、いかがでしょうか?」

「それはいいお考えですね」

「ありがとうございます」


「組織の名称はどういたしましょうか?」

「『宰相官房』なんてどうかと思いますが…」


「それはいかにもカッコいい名前ですね。その線で宰相閣下と相談してみます」


「それで…実は宰相官房ができたら、私もそこで働いてみたいのですが…」

「ええっ! 殿下が官僚になられるとおっしゃるのですか?」


 ──だって、大学を卒業したら暇なんですもの…


「ダメ…でしょうか?」

「ダメかどうかはわかりかねますが、前代未聞のことですから、陛下が何とおっしゃられるか…」


「お母さまには、宰相官房の設置方針が決まり次第、私の方から相談してみますわ」

「そうですか…良い結果になるといいですね」


 そして宰相官房の設置はあっさりと決まり、私はマリア・テレジアに相談に行った。


「お母さま。宰相官房の設置についてお耳に入っていると思います。ついては、私も大学(アカデミー)を卒業したことですし、宰相官房で働いてみたいのですが…」


 と言いかけたところで、マリア・テレジアは即答した。


「それではハプスブルク家の皇女が官僚の風下に立つということになろう。それはまかりならぬ」

「そ、そうですか…」


 ──ああ。これからどうやって過ごそうか…


「おまえは政務に関わりたいというのであろう」

「まあ。そうですが…」


「ならばおまえを宮中伯(プファルツ)に任じ、宰相官房の長とする。それならば問題あるまい」

「ええっ! それって私が官房長官ということですか? そんな大それたことは無理です」


「なに。副長官に宰相の息子を据えれば、おまえとしては文句があるまい。違うか?」


 ──ああ。カウニッツ様のことがマリア・テレジアにもバレている!?


「それは…そうなのですが…

 わかりました。その話、お受けいたします」


    ◆


 大学を飛び級で卒業し、未来の皇帝よりも優れた才能を示してしまった私は、長女のマリア・アンナと同様に宮廷で(うと)まれる存在となっていた。


 だが、カウニッツ様が手を打ってくださった。

 今までカウニッツ様が行ってきた献策の多くが、実際は私の発案によるものであることを公表したのだ。


 カウニッツ様の献策について、(さすがは宰相閣下の息子よ)と賛辞を送っていた官僚たちは、(てのひら)を返すわけにはいかず、私の陰口が言い難くなってしまったのだ。

 これで私が官房長官になる地ならしができたと言える。


 私は直ちに官房長官に就任し、山積する課題に忙殺される日々を送ることになった。

 一方で、一日の大半をカウニッツ様と過ごすようになり、カウニッツ様とはより親密な関係となっていた。


 ただ、それは仕事の上での話であり、甘い言葉の一つも囁いてはもらえなかったのだが…


 それでも二人は、仕事の合間と見つけては、視察という名のデートを細々と続けるのだった。

お読みいただきありがとうございます。


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