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第10話 嫌われ令嬢は財政再建策を献策する

 御前会議のあった日の夜。

 カウニッツ様は、私の部屋を訪ねてきた。


「殿下。夜分に申し訳ございません。周りからの圧力が凄まじくて…失礼を承知で来てしまいました」


 無理もない。マリア・テレジアにあそこまできつく言われたのだ、宮中伯(プファルツ)と官僚たちは戦々恐々としているのだろう。


「いいのよ。お母さまに助言したのは私だから。私にも責任があるわ」

「恐れ入ります」


 議論を始めようとするところで、侍女のアデーレが紅茶と軽食を持ってきてくれた。


「どうぞごゆっくり…」と言うと、アデーレは生暖かい視線で私たちを見ている。


 ──ああ。アデーレにも私の気持ちがバレているのね…。ずっと近くにいるのだから無理もないか…


 紅茶を飲んで気を取り直すと議論を始める。


「早速ですが殿下。殿下におかれては解決策がおありのようですね?」

「ええ。国債を発行して資金調達をするのよ」

「『こくさい』ですか? それはどのようなもので…?」


 国債はイタリアなどの経済先進地域では発行されているものの、帝国では本格的な発行はまだであり、市場にも流通していなかった。

 財務官僚でもないカウニッツ様が知らないのも当然だ。


「国の借金を証書化して、売買できるようにしたものね」


「要するに借金ですか…。しかし、帝国は有力貴族や大商人から既に多額の借金をしております。この上借金をして返せるのでしょうか?」

「国債の償還期限に必ずしも借金をゼロにする必要はないの。償還する資金が足りなければ、また国債を発行して資金を調達すればいい。

 これは赤字国債といって、あまり好ましいものではないのだけれど、長い目で見て計画的に赤字国債を減らすようにしていけば、いつか借金はゼロにできるわ」


「有力貴族や大商人も金を貸すような資金の余裕はないかもしれません」

「貴族はともかく、大商人は戦争のおかげで帝国を始めとする各国が大盤振る舞いをしているから資金がないということはないと思うわ。

 それに発行する券面額を手ごろな金額に押さえれば、中小商人や裕福な個人にも引き受けてもらえるはずよ」


「なるほど…では、国債を発行して資金調達するということでいけそうですね」

「それが、そう単純にはいかないのよ…」


 私は、国債を流通させるための債券市場の整備、取引を仲介させるための銀行の整備、国債を偽造されないような技術開発…etcが必要なことを説明した。

 カウニッツ様は、必死にメモを取っている。


「後は…そうね。償還期限は10年をメインに、5年や3年も適度に混ぜて償還時期を分散させるのが得策ね。それから一気に全額調達するのではなくて、発行時期も少しずつズラしたほうがいいわね。

 国債の種類も利付債だと事務が煩雑になるから、まずは割引債から始めた方がいいと思うわ」


「その割引債というのは?」

「例えば、10年後に100万ターラーを帝国から償還してもらえる権利を債券市場で競売にかけるのよ。そうすると100万ターラーよりも高い買値はつかないから、その差額分が利息相当分になるわけ」

「なるほど」


「若干まやかしにはなるけれど、『利息相当分を先取り』とでも説明して売れば、金融に詳しくない人たちは飛びついて買ってくれると思うわ」

「確かに…そうかもしれません」


 そして、カウニッツ様は分厚いメモの束を持って帰っていった。


 私はホッと一息つくと、思った。


 ──カウニッツ様と会えたのは嬉しいけれど、今日の会話は色気も何もなかったわね…また今度デートしてもらえるかな…

お読みいただきありがとうございます。


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