009.大規模殲滅作戦
初陣から2週間、私達は順調に稼いでいた
1日平均1800万マニ、実働は9日で総収入1億7200万マニ、キャプテンの借金は一括で返済して債権者はギルドから私に変更された。
弾薬費や補給、軽いメンテナンス費用等を差し引いた運転資金は元の資金5200万を加えて安全水域の1億マニを超えた。
キャプテンの経験から来る読みも絶対では無く、賊の拠点らしき宙域を発見しても、仕事へ行ったのか逃げたのか別の拠点へ移動したのか、賊達が居ない場合もあるので簡単にはいかない、そこは広大な宇宙の話だから仕方がないね。
暫定的にキャプテンの取り分は収入の10%と決めたので、これから総額10億マニを稼げばキャプテンの借金は完全に無くなる。
「金返しても自分の航宙艦を買うのに数億マニ、先は長いねえ」
と、呑気にお酒を飲んでいるので当分私に付き合ってくれるようだ。
航宙艦は最低数億、キャプテンがその額を手にするには私が数十億稼ぐ必要があるので確かに気の長い話になりそうだ。
「あれ? 私でこれだけ稼げるなら、キャプテンだと3億位1ヶ月でいけたんじゃあ」
「キャプテン・ドレイクは稼ぐとパーッと使って、懐が心許なくなると稼いで、だったので・・・」
「ああ確かに傭兵って自由業だもんね、そんなイメージはある」
「いくらアタシでも流石に腕ナシ艦ナシ借金アリでそんな事はしないさね、借金奴隷に落とされるのはゴメンさ」
借金奴隷だと本人の技能に応じて働き先が決まるから、キャプテンだと護衛が星系軍を紹介されるのかなあ? 借金額が莫大だと死ぬ迄働く事になるし、下手すると危険な宙域とかで使い潰される可能性が高い。
最悪は外宇宙の開拓船団に組み込まれて肉体労働、この辺りは女性だと身の破滅と同義になるからろくな事にならない。
「ノワ様、キャプテン、ギルドから呼び出しのメッセージが来ております」
「あん?」
「なんだろう、借金は清算したから督促は無いだろうし」
「ギルドからの呼出しとなると大規模作戦の可能性が1番高いね」
「でも、私はまだ猫級だから大規模作戦には参加不可だと思うんだけど」
「ギルドでは賊狩りの戦闘ログを確認しているから、恐らくノワの技量的には問題無いと判断しての依頼じゃないかね? アークには金獅子級のアタシも同乗しているし、配置も激戦区を外してとか考えていそうだ」
「ふーん、別に激戦区でも良いけどね」
整然と陣を組んだ艦隊戦に敵味方入り乱れる乱戦、自機以外全て敵機のバトルロワイヤルと状況の履修は問題無い。
「キャプテン・ノワ、ギルドからの大規模招集依頼がある、内容は宇宙海賊団の殲滅、依頼主はアトランディア星系軍で固定報酬が500万だ」
「な、言っただろう?」
「うん」
ギルドまで来ると予想通り大規模作戦の依頼だった、固定の参加報酬500万でこれが最低保証、あとは小型艦1機討伐につき150万、中型艦500万、駆逐艦級で1000万、巡洋艦級で1500から2000万の出来高払いとなる。
宝探しは別口なので+αの報酬もアリと大規模作戦はとても美味しい仕事だから受ける一択だ、詳細は後日各艦コクピットで受けられるブリーフィングが開かれる。
***
「ドレイク、ちといいか?」
「なんだい?」
「お嬢ちゃんの腕は把握してるが、大規模戦闘は問題無いか?」
「ギルドが問題無いと太鼓判を押したから依頼したんだろう? 受けるも受けないもノワの判断次第、そしてノワは受けた、そんだけだ、なんでアタシに聞く」
「分かるだろう? お嬢ちゃんは歳若いし、腕が良いと期待されてた奴がアッサリ死んだりするのが傭兵だ、同じ艦に乗っている金獅子級から見た評価が欲しい」
「・・・腕はそうさねえ、並の金獅子では相手にならないだろうね、こと戦闘においてはクレバーさ、問題無いよ」
「お前がそこまで言うのか・・・」
「言うさあ、フルマニュアル操艦でブレードを操る技術なんて見せられたらね」
「毎回必ず一機は2枚に卸された賊艦が入港しているのは把握していたが、マジかよ・・・」
「言っておくが戦闘中アタシは何も手を出しちゃいない」
ヒラヒラと無くした左腕を振ってキャプテンは笑った、
「お前ッ、稼いでいる割に腕生やさないと思ったらそういう事か!」
「・・・なんの事だい?」
とぼけてみせるドレイクに強面は納得した
よくある話だ、貴族や金持ちの道楽でキャプテンシートに子供を飾る、サブパイロットシートには腕利きのパイロットが座って賊狩りをして子供に泊をつけさせるというものだ。
少女ノワがオーナーでキャプテンシートにも座っている、金獅子級の傭兵ドレイクが同乗しているとなれば周囲の目としては「そういう事か」と思われるだろう。
しかし肝心のドレイクは片腕のまま、戦果を毎日の様に挙げてくる戦闘艦アークとなれば正当な評価はノワに着いてくる。
「仮に腕を生やしたってアタシはアークのメインパイロットになるつもりは無い、アークはノワの艦でアタシはサブパイロット、それだけさ」
「ほほー」
「なんだい、その顔は」
「いや、あのドレイクがよ、意外にも面倒見が、オーケーなんでもない、取り敢えず理解したよ、腕利きは大歓迎だ宜しく頼む」
「あいよ」
ニヤニヤと笑う強面にドレイクの右手が光線銃のホルスターに伸びる、すかさずハンズアップした強面は軽口を叩いて職務に戻った。
白銀の機体アーク、歳若いキャプテン、金獅子級傭兵ドレイクと目を引く要素を揃えているノワ達は噂の的となっている、更に多数の人の目に留まる港湾には対艦ブレードで仕留めた2枚卸しの賊艦を引き連れて来るので、最近では『処刑人』などと呼ばれ始めたことをノワは知らない・・・
***
「わざわざ集まらなくてもブリーフィング受けられるのは楽で良いね」
「そうだね、一々顔を付き合わせると揉め事も絶えないからねえ」
「そうですね」
「揉め事って?」
「人が集まりゃそれだけ問題がおきやすいのさ、流石に軍相手に噛み付く阿呆は居ないけど、傭兵同士だと皆ひと癖もふた癖もある奴らばっかりだ、ノワ、今回はオンラインブリーフィングだから良いけど、帝国軍旗艦に集まってやる時もあるからね、アンタは特に気をつけな」
「私? なんで?」
「はいノワ様、私もキャプテンに幾度も同道していますが傭兵の世界では女性、若い、新人ですと高い確率で因縁をつけられます」
「え、全部当てはまるじゃん」
絡まれるの確定!? ヤダなぁ、そんなに問題起きやすいなら軍でも把握してるでしょ、もう全部オンラインブリーフィングで良くない?
因みに絡まれ方は、俺の女になれ、俺の艦に乗り換えろ、やらないか? が八割を超えるそうだ、最低だし大同小異で全部同じ意味じゃないかなそれ。
他にも優男風、イケメン、女性スタッフ連れの男、等にも積極的に絡みに行くらしい。
「嫉妬じゃん、ダサッ」
「はい、醜いものです」
「アンタら・・・、アタシもほぼ同感だけど面と向かっては言ってくれるなよ」
そうして話している内にブリーフィングが始まる時刻が近づいて来たので、それぞれシートに着座して待つ事にした。
キャプテンは兎も角、私は初めてだからしっかり受けたいし、オンラインブリーフィングだから話し声も参加者全てに聞こえてしまうからね、ひと口ドリンクを口に含んで1度深呼吸する、若干緊張した私をキャプテンがサブシートからニヤニヤと見ているのが視界に入ったけど、丁度ブリーフィングが始まったので無視する事にした。
『EL Atrandia Empire Force』
エル・アトランディア帝国航宙軍の紋章が正面大画面のメインモニタに表示された。
次にメインモニタ中央、胸に勲章を幾つか着けた40位の威厳たっぷりな軍服男性が現れた、他の参加者は左右に小さくバストアップで表示されている。
『諸君、私はサジタリウスL2宙域を任されているワグナス少佐だ、今回は当該宙域の宇宙海賊掃討作戦に参加頂き感謝する、これから短期ではあるが肩を並べて戦う同志だ、宜しく頼む』
「よろしくお願いします」
私が挨拶を返すと少佐が目を丸くしてピタリと止まった、・・・え?
『誰』『少佐殿が固まったぞ』『女だ』『ウチに来ねえかな』『挨拶なんて初めて聞いたわ』『艦名アークって処刑人の』『は?あの子が処刑人?』『何、処刑人て』『知らねえのかよ、最近ブレードで真っ二つにされた賊艦が港湾にあんだろ』
ザワザワと他の参加者が笑い始めた事で私も気付いた、挨拶しないんだ! ハッと前のサブシートを見るとキャプテンがシートから転げ落ちて声を殺して笑っていた、あぁぁぁっ!!
『ンン、ゴホンッ!お嬢さんありがとう、挨拶は何事も基本だ、分かった分からない、気軽に発言してくれて構わない、主な作戦行動は軍で決めてあるが忌憚のない意見は歓迎しよう』
少佐は慣れているのか咳払いすると、フと口元を緩めて話を継続した、いきなり腰を折ってすいません、顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
穴に埋まりたい、って言うか宇宙の藻屑になってしまいたい気持ちで私は黙って話を聞くことにした。
『基本戦術は事前に当該宙域を封鎖する、それから帝国航宙軍の主砲で遠距離から宇宙海賊の拠点へ先制攻撃を加える、知っての通り航宙軍の主力は駆逐艦、軽巡洋艦、重巡洋艦、戦艦と小回りの効く構成では無い』
本題は早速始まると今までザワついていた雰囲気は霧散して皆静かに耳を傾けた、キャプテンはヨロヨロとシートに戻って肩を震わせている。
『無論、小型戦闘艦も一定数配備されているが絶対的に手が足りない、その足りない手を諸君ら傭兵に補って戴きたい、先制攻撃を受けた賊は四方八方へと逃走する事が予想される、それらを待ち伏せ撃破するのが諸君らの役割だ、今から各艦へ担当宙域を送るから確認してくれ』
ホロギャラクシーマップに送信された私達アークの担当宙域は、これもキャプテンの読み通りで激戦区を外されていた。
新人という事での配慮なのか、とても闘いやすく賊の逃走経路としても細めの宙域になっている、艦隊行動だから特に不満は無い、激戦区は軍の小型艦を主力に銀獅子級以上のベテラン傭兵で固めた堅実な配置だ。
『撤退、補給修理は各艦の判断に任せる、多少抜かれても宙域封鎖しているので問題は無いが、あまり抜かれるのも困るので報酬相応の働きは期待したい所だ』
ボロボロ取り零す、そんなヘボじゃないよな? と副音声が聞こえてくる言い方だ、傭兵自身の面子も有るしギルドとしての面子も有るだろう、限界を迎えて爆散するまで戦う人間は居ないけど、後ろ指を差される情けない戦い方は出来ないなと私は気を引き締めた。
後方には軍とギルド手配の補給修理艦が控えているので、上手く使っていきたいね。
『さて、質問や意見はあるかな? 今でなくとも後程問い合わせて貰っても構わないが・・・、・・・無いようだな、ではブリーフィングはこれで解散とする』
「ありがとうございました」
細々と注意点等を話した後、少佐はブリーフィング締めの挨拶に入った。
もう最初にやっちゃったんだから、私はこの際挨拶はしっかりする事にした、今度は固まらずに表情を柔らかくした少佐が敬礼をしてブリーフィングは終わった。
「ダッハッハッハッ!」
ブリーフィングモニタが完全終了した瞬間、コクピットにはキャプテンのバカ笑いが響き渡る、うううう、笑い過ぎ!
「ノワ様、挨拶は大事です」
止めてシェフィ、そのフォローは私に効く
シェフィのフォローが私に追い打ちを掛けた。